見出し画像

「映像が大資本の手を離れるまで」・・・『チャットGPTの時代に(その1)』。デクノボウと呼ばれた青木くんが生き残った理由。


大昔、カメラや照明機材は高額で、
出資できる資本家の下にいないと触れる事さえできなかった。
映画やテレビは大資本の独占状態だったのだ。

「この業界に居られないようにしてやろうか!」

青木君(仮)が初めて就職した映像制作会社のアルマジロのような社長は、そんな言葉をよく口にした。

気に食わない事や、自分の失敗を突かれると
怒りまくったあげく、そう言い放つのだ。

だけど、青木君は全く意に介していなかった。

社長一人、社員一人の制作会社が、業界にどんな影響力があるのだろうか、という事と、青木君自身、絶対この仕事を続けたいと言うほど、映像業界に思い入れが無かったのだ。

青木くんは映像系の大学に通っていたが、何となく大資本出ないと映像に関われない現状に戸惑っていた。
それでも作品を作る事には興味があり、自分の使えるお金で映像作品作りだけは細々と続けていた。

同級生の中には、年中映画館に通い、映画や演劇について熱く語る連中や、学生時代からバイト代も貰わずに現場の仕事に精を出す者もいたが、そういう話を耳にするたびに、「頑張っているな」と感じて、尊敬の念を送っていたが、自らがその世界に浸かるつもりはなかった。

それでも、映像制作会社に就職したのは、同じ会社と先に取引していた同級生からの押しと、推薦があったからだ。

だから特に相手の会社について調べもせずに、働きに行った。

そんなだから、当然冒頭のようなセリフを聞くことになる。

「この業界に居られないようにしてやろうか!」

そう言われた青木くんが考えていたのは、

『給料も滞っているし、ここに居れなくなってもどうってことは無いな』

という事。そして、こんな状況でも動揺して、必死に業界にしがみ付く者もいるんだろうな、と感じていた。

就職して半年も経たないうちに、その会社に出入りしている人の紹介で、別の制作会社に移る事になり、アルマジロ社長と会う事は無くなった。
しばらくして、アルマジロ社長が全く別の業種に移って
フリーランスの社員をしているという事を知った。

業界に入れなくなったのは、アルマジロ社長の方だった。

その後青木くんは、学生時代から培っていたノウハウと編集能力でどこに行っても重宝され、そこそこ魂を燃やしながら、結局70歳近くまで業界で働き続けた。

それが可能としたのは、機材が安価になり「機材への投資」より「ノウハウ」に価値の重心がスライドしたからだった。

「つまり、映像が大資本の手を離れた事で膨れ上がっていったから、何とか生きてこられた」

と青木くんは思っていた。

だが、青木くんは気付いていなかった。
長く続けられたのは、自分の立場を気にせず、好きな事だけに注力した「上手く鈍感になる力」にあったという事を。

例え辛い内容の仕事でも、一部でもやりたいことが残っていれば、続けることが出来たのだ。

映像制作のハードルの一つである「資本力」が無くなった今、
動画サイトなどの新しいメディアで稼ぐ者は後を絶たない。

青木くんの生き方を見ていると、そんな場合にも
「上手く鈍感になる力」が大切だと思えるのである。

                           

「映像が大資本の手を離れるまで」

                          おわり

『チャットGPTの時代に』は、まだまだ続きます。





#R怪談 #怖い #不思議 #謎 #上手く鈍感 #デクノボウ #未来の映像 #チャットGPT #制作 #生き残る #チャットGPTの時代に

ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。