「美しい世界を堪能」・・・十八世中村勘三郎 十三回忌追善
十八世中村勘三郎 十三回忌追善 中村勘九郎 中村七之助 錦秋歌舞伎特別公演2024を観劇した。
会場は、ティアラこうとう 大ホール。
歌舞伎座や国立劇場とは違った魅力の会場でかぶりつくように、中村勘九郎さん、中村七之助さんと中村鶴松さんのの歌舞伎(今回は舞踊)を拝見した。
「トークコーナー」に続いて、「若鶴彩競廓景色(わかづるいろどりきそうさとげしき)」
15分程の短い踊りだが、桜の花の書き割りが美しい。いつも思うのだが、歌舞伎の書き割りは眺めていて心地よい。
そして、華やかな踊り。歌舞伎らしく見えを切る場面もあり、その世界に引き込まれる。
続いては、「舞鶴五條橋(ぶかくごじょうばし)」
御存知、牛若丸(鶴松)と弁慶(勘九郎)の出会いの場。
これも踊りなのだが、弁慶の薙刀を駆使した二人の華麗な動き。
物語を伝える踊り、感情や人の気持ちを伝える踊りの楽しさを味わった。
さて、余談だが、当日のトークショーで話していたのだが、
中日ドラゴンズファンの勘九郎さんが七之助さんたちと賭けをしていたらしい。
「もし中日が最下位になったら、頭を丸める」
トークショーの時点ではまだ決定していなかったが、
果たして勘九郎さんは坊主になったのだろうか。
牛若丸と弁慶の出会いを見ていると、
歌舞伎の題材もある「勧進帳」の事を思いだした。
勧進帳の舞台は諸説あると言われていますが、
今回の話は安宅関(あたかのせき)で取材したものです。
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「安宅の関の男たち」
安宅(あたか)の関の関守、富樫泰家は、
怪しげな山伏たちの正体を見極めようとしていた。
兄である源頼朝から追われた源義経と武蔵坊弁慶の一行が、
奥州平泉を目指して、関を通り抜けようとしていると、知らせが入っていたのだ。
ある日、北へ向かうという山伏の一団が通行を願い出た。
「山伏であるなら、勧進帳をお持ちの筈。ここで一つ読み上げてもらえんか」
「なんと、勧進帳をとな」
「さよう。関守としての務めであるから、失礼とは思うが、この場で披露して頂きたい」
務めと言われて断れば、余計に疑われる。
山伏の中からひときわ大きい男が前に出て、
巻物を取り出し、読み始めた。
富樫は、その姿に何か腑に落ちぬものを感じていた。
勧進帳の内容は合っている。読みも淀みなく見事だ。
だが、何かがおかしい。
富樫は大男が読み上げる巻物を確かめようとする前に
大男は読み終え、そそくさと巻物を片付けてしまった。
「勧進帳一巻、読み上げてござる。
修行の身にて先を急ぐ故、これにてお通し願いたい」
きっぱりとした口調に、富樫は逆らえなかった。
「勧進帳確かに聞き留めました。通られるが良い」
山伏一行が一礼して、富樫の前を通り抜けようとしたその時、
関守は屈強な山伏たちの中に、細く小さな若い山伏がいるのに気づいた。
「待たれい。そこな若い山伏。修行の身としては余りにもきゃしゃではないか。
面を上げて顔を見せい」
富樫が声を掛けると、山伏一行に緊張が走るのが分かった。
富樫が二の句を告げようとした刹那。
先ほどの大男が、きゃしゃな若い山伏に金剛棒を振り降ろした。
「ええい。先を急ぐ旅だというのに。
おのれが義経に似ているために、このような疑いをかけられるのじゃ」
若い山伏を打ち据える大男の目に涙が浮かんでいた。
富樫は悟った。
『間違いない。これは義経と弁慶だ。
だが、目の前の大男は、主君の義経を何の迷いもなく打ち据えている。
義経に心酔し、主君の為なら命も惜しくないという武蔵坊弁慶が、
あれほど強く金剛棒を振り下ろせるものなのか。
肉が裂けるような音さえするではないか」
富樫は、義経と弁慶の間に、余人には計り知れぬ信頼があるのだと思った。
そして、この主従の関係が、とても美しいものに思えた。
「いやいや。もう十分、分かり申した。お通り下され」
富樫は山伏一行の詮議を止め、関所を通した。
関所を通り抜ける時、弁慶は富樫に深々と頭を下げた。
富樫は、軽く会釈し、一行を見送った。
「羨ましいほどの信頼よの」
抜けるような青空が、安宅関を見下ろしていた。
心を動かされて何もしなければ、
自らを裏切ることになる。
義をもって人の道と呼び、慈愛にこたえて忠義が生まれる。
おわり
誰もが知る、勧進帳の一場面です。
この後、無事関を抜けたのを確認して、弁慶は土下座して義経に詫びるのですが、
義経は弁慶の心情をくみ取り、その行動力と機転を逞しく思うと言って
変わらぬ信頼を示したのでした。
安宅関は、石川県小松市の日本海側にあったと言われる関所ですが、
実はこの場所に関所があったとされているのは、謡曲の中だけで、
実際に関所があったかどうかは、はっきりとしていないようです。
ちなみに、十八世中村勘三郎 十三回忌追善公演は、この後も全国を回り、
最後は硫黄島の砂浜で「俊寛」を演じるということでした。
そちらも見てみたいですね。
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