「不謹慎なお見舞い」・・・ホラー短編。お見舞いに来てくれるのはありがたいが。入院の怪談その2
『不謹慎なお見舞い』
「しかし、お前もしぶといな~。
あんな高い所からバスが落ちたのに、大きなケガも無くて」
遥人のお見舞いは相変わらず、イヤミったらしい。
「しぶといかどうかは、まだ分かんないよ。頭の精密検査がまだ残ってるし、それが終わるまで何も食べられないんだろう」
悠馬は俺の容体より、差し入れのメロンが気になるみたいだ。
「二人とも! 今日はお見舞いに来てるのよ。失礼でしょ。御免ね。航太くん」
さすが委員長。結月はやっぱり優しい。悪友二人とは全然違う。
「ありがとう。委員長。でも俺気にしないから」
「そうだよ。こいつ、結構気にしないんだよ。おっと」
ベッドに座ろうとした遥人を委員長が腕を引っ張って制止した。
同級生相手でも、子供を諭す様に叱るところが彼女の人気の秘密だ。
「でもこんなところにずっと寝てたら、いくら航太でも気になるだろう・・・色々と」
「何よ色々って」
「真夜中に人の乗ってない車椅子がぁ、カラカラカラっと勝手に動きまわる・・・とか。
ううう、苦しいって金縛りで目が覚めると、胸の上にぼやあ~と光るおばあさんが乗っている・・・とか」
「俺は金縛りにはならないし、夜はグッスリ派だから、何か起こっても分からないな」
「じゃあ。こういうの聞いたこと無いか?」
悪友どもは、俺が気にしないのをいいことに、病院の怪談を面白がって話し始めた。
「4階の4号室は、普段は鍵がかかっていて誰も入院していないのに、
午前零時になると、必ずナースコールがかかるぅ・・・」
「この病院、3階建てだぞ」
「じゃあ。猫の呪い。何度も手術に失敗する手術室があって、そこで手術するとメスで切った傷口から猫が覗いているのが見える。実はそこは、戦時中動物実験に使われた場所だったぁ~」
「やだ。猫がそんな気持ち悪い事するわけないでしょう。
これだから犬派の連中は嫌いなのよ。猫はもっと可愛い生き物なのよ。
例えば、どこから入って来るのか分からないけど、病室に白い猫が現れるの。
現われては寝ている患者さんのベッドで居眠りをしてどこかに消える。
退かしても退かしても、同じ患者さんのベッドの上で優しく寄り添って居眠りしにくるの。
でも、その猫が来た患者さんは、どんなに元気そうに見えても、一か月以内に亡くなってしまうのよ」
「死神かよ!」
男三人が同時に突っ込みを入れた。
「人が動けないのを良いことに、委員長まで俺を脅かしやがって」
「ごめんね。でもさ。こんな薄暗い病院なんて、航太くんに似合わないよ」
「そうだよ。早く退院しろよ」
「ありがとう。みんなすごい熱演だったよ。
でも俺は、そんな事で怖がったり逃げたりしないから」
そう言いながら俺は嬉しかった。
気を遣わずに何でも話し、笑い合える三人の顔を見ていると、
『怖い事が起こるかもしれないから、さっさと治療を済ませて退院しろよ』
という励ましの言葉であると分かったからだ。
「ホント、脅かし甲斐がないな。航太は」
「次までにメロン切っとけよ」
悪友たちは、順に俺の手を取って笑いかけてきた。
「じゃあ。行くね。元気でね」
最後に結月が手を握った時、俺はその顔を見つめて、本心でこう言った。
「委員長。顔が半分無くなっても君は可愛いよ」
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