「近すぎる過去への追憶」・・・文学と語りの蜜月、もしくは漫画家の戸惑いと執着。
「描きかえられた鉄腕アトム」という本を読んだ。
雑誌連載と単行本化で作者の手塚治虫氏が何度も手を入れ描きかえていった内容を比較して解説している。
手塚治虫氏の書き直し癖は有名で、この本以外にも「手塚治虫の奇妙な資料」「手塚治虫 原画の秘密」などの書籍でもその一部が解説されている。
これらを読むと、作者が意図していたのは、連載時のものなのか、
単行本化の時のものなのか、深読みしたくなってくる。
作家のこだわりが垣間見えて面白い。
これを読んでいて、とある朗読会を体験し、今までにない構成の朗読会だったので初めてであったので、戸惑いもあった。
~日本文学を読む~「伴一彦の文章に声と心をつけてみる。」
「玉響の会」(たまゆらのかい)出演・佐藤昇 神由紀子 田中智子
この朗読会で読まれたのは、脚本家として知られる伴一彦氏の小説『追憶映画館』。
朗読会の第一部で『追憶映画館』の前半部分を女性二人が読み継ぐ。寂れた地方映画館を巡る謎を主人公が様々な思い出とともに探っていくが、
結論は出ない・・・さて真相は? と思ったところで、第一部が終わる。
そして、第二部が始まると、男性の読み手が、再び『追憶映画館』の前半部分を読み始める。観客が戸惑っているうちに、第一部と同様に結論は出ず、さて真相は?で朗読会は終わる。
つまり同じ物語を同じ会の第一部と第二部で、二度読んだのである。
二つは、別々の書籍と雑誌に掲載されているものらしく、
細部や表現に少し違うところがあるが、基本物語は同じである。
さて、戸惑った。どうとらえて良いのか?
そう思いながら、先ほどの手塚治虫氏の本を思い出した。
作者の推敲を辿れと、いう意味なのか?
更に考えていると、最近似たような体験をしたことも思い出した。
BS朝日の番組「御法度落語~おなじはなし寄席」である。
この番組は、東西の落語家が「時そば」と「時うどん」など同じ噺を続けて演じ、東西の落語の違いなどを鑑賞する番組。
視聴者は、細部の違い、オチの違いなどを目の前に並べられることで
よりその作品に興味が湧くという狙いだ。
そこで、思ったのだが、落語、歌舞伎などの伝統芸能、シェイクスピア劇、映画のリメイクなどは、物語はすでに知れ渡っていて、その演じ方や演出を楽しむのが核になっている。朗読会でも古典を読むことが多いため、どのように演じられるかに注目が集まる。
であるなら、
同じ作品を同じイベントで演じる、という構成も、観客が楽しんでしまえば
それで良いのかもしれない。
なにより、読み手はそれぞれ個性的で、声の良さなどもあり、
聞いていて、不快感などはない。
それどころか、声の良さには、聞きいってしまう程である。
いっそ、「おなじはなし寄席」のように、同じ物語を演出を変えて朗読し、「どうだ。この朗読会の企画意図が分かるか? 違いを感じ取れるか?」などと挑戦的にやってみるのも、アリなのかもしれない。
朗読会は既に終わっているが、次回どのような構成になるのか、ある種楽しみでもある。
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