「黄金の鐘」・・・怪談。金箔貼りの寺の鐘は。
羽州の国境にある小さな村に、道怪寺という古いお寺がりました。
「まったく、道怪寺の和尚はがめついのう」
和尚は、やれお彼岸だ、お盆だ、花まつりだと言っては
村人から多額の金を集めていました。
しかし、実際の行事や供養は手を抜くので、村人の評判は良くありません。
一度など七回忌の大法要なのに、心経を一度読経しただけで終わりにしてしまい、あとは饅頭を食って説話にもならない世間話をするばかり。
村のお寺は一つだけ、村人の先祖代々のお骨は全て、このお寺にあったので、黙って言う事を聞くしかありませんでした。
和尚は、集めた金で寺の改修や増築を行い、どんどん寺は立派になっていきました。
特に自慢は、金箔貼りの黄金の釣り鐘です。
この鐘は評判を呼び、鐘の音を聞こうと国境を越えて訪れる者もすくなくありません。
しかし、和尚は、
「鐘を突くと金箔が剥げる」
と言って、一度も鐘を鳴らしませんでした。
村人たちは、時を告げる鐘の音が聞こえないので不便したが
和尚は意に介さず、朝な夕なに金色に輝く鐘を眺めては
「よしよし。今日も美しいのう」
と喜んでいたのでした。
ある日のこと、
ひとりの雲水(旅の修行僧)が道怪寺を訪れました。
「私は、出羽の向こうより参った修行中の者ですが、
こちらの寺には、霊験あらたかな黄金の鐘があると聞きました。
ひとつ、ありがたい鐘の音を突かせてもらえないでしょうか」
ボロボロの衣を着たみすぼらしい雲水の姿を上から下まで
眺めた和尚は
「いいや。ありがたい鐘は、眺めるだけでもありがたいもの。
鐘を突けば、金箔が剥げてご利益も減ってしまうではないか」
と言って断ってしまいました。
それでも雲水は
「村に時を告げる時には鐘を鳴らすでしょう。その時でよろしいのですが」
「もし私に突かせるのがお嫌なら、和尚殿が突く時に横で聞かせて頂くだけでも良いのですが」
と、三度にわたってお願いしましたが、和尚は、
「いいえ。何と言われようと、鐘を突くことはいたしません」
と、全く首を縦に振りませんでした。
「左様でございますか。しからば」
言われた雲水は、鐘撞堂の鐘を見上げたかと思うと、
石段を駆け上がり、黄金の鐘の前に立ちはだかりました。
そして、
「我が生まれしは、何のためぞ!」
と叫ぶと、
黄金の鐘の縁を両手で掴むと、グルグルと鐘を回し始めました。
和尚が慌てて駆け寄ろうとしますが、間に合いません。
天井から太い綱で吊るされているはずの鐘は、
目にも止まらぬ速さで回りだし、あっという間に鐘撞堂から飛び出し
雲水と一緒に空に舞い上がり、雲の中に隠れてしまいました。
鐘の無くなった鐘撞堂の中で、和尚は腰を抜かして座り込んでしまいました。
それ以来、明け六つ暮れ六つの九つになると、雲の中から
ごお~ん。ごお~ん。ごお~ん。
と鐘の音が、聞こえてくるようになったそうです。
おわり
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