「麻田君、レストランにお弁当を持っていく。」・・・カーニバルの夜に気付いた事とは。
麻田君には、どうしても行ってみたい祭りがありました。
南米ブラジルのリオのカーニバルです。
入社当時、カーニバルに参加した会社の先輩から、その異常なまでの盛り上がりと高揚感について聞かされて以来、いつか行ってみたいと思っていたのです。
1,2年目は忙しくて時間がありませんでした。
3、4年目は大きなプロジェクトを任されて断念。
麻田君のカーニバル熱は、徐々には抑えきれなくなっていました。
そして5年目。
「もし今年、休みが取れずにカーニバルに行けなかったら、会社を辞めてでも行く」
と周りに言いまくっていた甲斐もあり、休暇を取ることが出来たのです。
出発前、カーニバルを教えてくれた先輩にも、
「楽しんで来いよ」と餞別を頂いて、意気揚々と出発しました。
同行したのは当時付き合っていた彼女の直美さん(仮名)。
12時間以上飛行機に乗り、アントニオ・カルロス・ジョビン空港に降り立つと、到着口に「Welcome Asada」と 書かれた紙を持った髭の立派な青年が立っていました。
「ハ~イ!アサダ。ニコラスです」
屈託のない笑顔に麻田君も安心して挨拶をして、
横にいる直美さんを紹介しました。
すると、急にニコラスの表情が曇り、笑顔がぎこちなくなったのです。
「どうかした?」
「いや別に、何でもない」
すぐに元の明るい笑顔に戻ったので麻田君は特に問いただすことも無く、
そのままニコラスについて行くことにしました。
ニコラスはドライバー兼ガイドとして、コルコバードの丘のキリスト像やコパカバーナ海岸を案内してくれたのですが、さすがカーニバルの週末、どこへ行っても観光客で一杯。
麻田君と直美さんだけでなく、ニコラスまで少し疲れ気味でした。
「じゃあ。夜のコンテストは自由に楽しんでおいで」
とニコラスにホテルまで送ってもらった時には
二人ともちょっと熱気に酔っていました。
「夜のコンテストは一服してから行こうか」
「でも、うっかり寝ちゃうと起きられないよ」
と迷った挙句、やはりそのまま出かけることになったのです。
気合を入れなおし、二人で外に出ると、
市内のストリートに溢れるサンバのリズムがさらに熱く伝わってきます。
日が暮れるにつれ、カーニバルは最高潮を迎え、
エネルギー弾ける肉感的なダンスとギリギリの衣装のパレードが
次々に展開していきます。
さらにパレードの周辺でも情熱的な光景が展開していて、
麻田君は目のやり場に困っていましたが、直美さんの方は肝が据わっていて
堂々としたもの。音楽に合わせて体を動かし、カーニバルを堪能しているようでした。
その直美さんが急に踊りを止め、パレードを見ている群衆を指差しました。
「ねえ。あれ見て!」
パレードを挟んだ向こう側の道には、昼間ガイドしてくれたニコラスがいたのです。
ニコラスは、昼間の疲れをものともせず、ビールをラッパ飲みしながら、両側にビキニ姿のグラマラスな女性をはべらせてパレードに歓声を上げていました。
すると、こちらの視線に気が付いたのか、ニコラスが大きく手を振って叫んだのです。
「ハ~イ! アサダ! どうだ。楽しんでるカ~イ?」
『君みたいな楽しみ方、彼女がいるのに出来るわけないだろう』
と心の中で毒づくほど、麻田君は羨ましく思えました。
ニコラスは実に楽しそうだったのです。
帰国後、
リオ行きを勧めてくれた会社の先輩に、「彼女と一緒に行きました」と話すと先輩は、空港で見たニコラスと同じぎこちない笑顔を浮かべ、こう言ったのです。
「馬鹿だな。最高級のレストランに弁当を持っていく奴があるか」
おわり
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