これは勝利か? 敗北か? 今見ておくべき芝居・・・「廻る礎」日本国憲法を巡る力と力。
友人の駒塚由衣さんの案内を受け、座・高円寺で「廻る礎」を観劇した。
元首相・吉田茂を主人公に、戦後の日本の政治家の姿が描かれる作品。
観劇前、これは憲法を巡って繰り広げられる
知恵と知恵の騙し合いであろう、と勝手に予想していた。
だがその予想は小気味よいほど裏切られた。
この舞台で描かれているのは、
「力」と「力」のぶつかり合いである。
本来政治が内包する、メンツと損得の生臭いほどの駆け引き、
人間同士のパワーバランスが舞台上に展開する。
男どもは、外圧に翻弄され、がなりあい、悩み、
理想と現実の狭間でなすすべもなく苦しんでいく。
この作品は、吉田茂、鳩山一郎、岸信介、佐藤栄作、
田中角栄など、昭和の怪物たちによる「群舞」だとも言える。
それゆえに、役作りの苦労が手に取るように伝わってくる。
物まねになってはいけないし、全く印象がかけ離れてもいけない。
実在した政治家であるだけに、芝居の組み立てには悩まれたであろう。
まだ初日という事もあって、
やや「その人物であろうとする」ところが見受けられたが、
そんなモノは、すぐにこなれていくことは容易に想像がついた。
政治家だけでない、人間の持つ普遍性であるところの
「メンツと損得の生臭さ」が、「群舞」の中に醸し出されて
いくことだろう。
会期の前半後半でどのように役者の芝居が変わるのか、
見比べてみるのも面白いかもしれない。
一方、女性の描き方は対照的だ。
婦人参政権により政治に目覚めていく女性。
夫に合わせ政治家を辞める女性。
坊やのような政治家の尻を叩いて押し出す女性。
決して群舞にはならず、パーソナルな、
人としての生き様や選択の葛藤、そして強さが描かれている。
「戦後強くなったのは・・・」という言葉を思い出した。
*ここからは、ややネタバレにもなるので、
無垢な気持ちで舞台をご覧になりたい方は、
後日お読みいただきたい。
さて、この舞台で「群舞」と言ったのにはもう一つ理由がある。
タイトルでもある「廻る礎」だ。
戦後日本の礎となるべき憲法を巡る政治家たちのやり取りが
岩の質感のある回り舞台の上でなされるのだ。
しかも、喧々諤々の議論を交わす議員たちを乗せた舞台を
廻すのは黒子ではなく、米軍のMP役の役者であるところが、
実に象徴的で重要だ。
これが黒子では政党のプロパガンダ演劇になってしまう。
その他、社会党議員の机の上の灰皿だけが小さいことや
前説が選挙演説調になっているなど、細かな演出が組み込まれている。
それらを探すのも面白いだろう。
最後に、入場時にもらえるリーフレットにも注目してほしい。
大日本帝国憲法と日本国憲法の比較表が付いている。
これを見ると、いかに自分たちが恵まれた憲法下にいるのか
思い知らされる。
いつか、アメリカ側との丁々発止の駆け引きも見てみたくなった。
JACROW#31『廻る礎』 座・高円寺1にて、
2021年11月11日(木)まで。
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