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「太っちょ。マルガレータ」・・・タリンの伝説。あだ名は、付ける人の人格を表す。


街を訪ねると、ほんの些細な事から、
そこに住む人の思いを感じることがある。


『太っちょ。マルガレータ』


エストニアのタリンは、13世紀以降、
ロシアと西ヨーロッパを結ぶ中継都市として発達し、
長くバルト三国を代表する歴史と文化の中心地であった。

男は、初めて訪れたこの街を歩いている時に、
不思議な温かさを感じた。

「この街は他の街と何かが違う」

時の流れを感じる建物が立ち並ぶ街。
その佇まいのせいかとも思ったが、どうにも腑に落ちない。

常にたくさんの人が行き交い賑やかなざわめきが聞こえる「カタリーナの小経」から「三人姉妹」と呼ばれる三連並んだ家を見て回った。

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教会の塔の上にある人型の風見鶏は、通称「トーマスおじさん」。

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花に囲まれた市庁舎の丸い塔は「のっぽのヘルマン」。

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「どれも親し気な呼び名がついている!」

男は気づいた。
住人たちが建物を、親しそうにあだ名で呼んでいるだ。
その語りのトーンや話す時の笑顔から、この街を愛する人々の気持ちが推し量られる。

男がそれに気づいたのは、街の入り口にある丸い建物を訪ねた時の事だった。

赤い屋根の大きな丸い建物の塔。
かつて港から街に入ってくる人々を威嚇する砲台として建築され、
「強く逞しい街」という印象を与え続けてきた。
平和な世になると監獄として使用された。

そんな重々しい歴史の証言者でもある建物は、
「太っちょマルガレータ」と呼ばれている。

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外観のいかつい印象とは全く違う可愛い呼び名。

「あだ名は、付ける人の心の表れなんだ」


名前の由来は、ここで働いていた飯炊きの女性の名前だとか、
砲台にあった太身の大砲の事だとか、諸説唱えられている。

しかし大切なのは、街の人々がこの傷だらけの建物を親しげに呼ぶところに意味がある。

愛情を込めて呼ぶ声が今日も聞こえてくる。

「太っちょマルガレータ」

                   おわり


「太っちょマルガレータ」は、タリン旧市街のピック通りの北端に位置しています。
砲台や監獄の他にも兵舎や倉庫として使用されていたこともあるそうです。
1511年に着工、1530年に完成。塔の直径はおよそ25m。壁の厚さは 4~6m。
高さおよそ20m。
1917年に起きたロシア革命の際に火災による被害を受け、廃墟と化したが
何度か再建工事が行われ、1981年にエストニア海洋博物館としてオープンしました。

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