「AI対GPT対職人」・・・『チャットGPTの時代に(その2)』。ダメだと言われた伊藤君が成功した理由。
「コンピュータによる映像加工技術が進んだら、
映像制作に携わる多くの技術者は要らなくなるんですよ」
その若い助監督・伊藤君(仮)は、ある映画の打ち上げでしこたま飲んで、酔っぱらった勢いでこう言った。
聞いていたのは、ベテランのカメラマン、チーフ照明技師、作曲家たちだった。
その場にいた全員が黙って睨みつけているを、
感心して聞いてくれていると思った伊藤君は、
持論をまくし立てた。
「例えば、カメラはこれから物凄く安くなります。
いろんな場所にカメラを設置して、素材を撮れるだけ撮ればいい。
背景もグリーンバックで撮影して、後で好きな物を合成する。
被写界深度も動きも自由だから、後で何とでもなる。
照明も、フラットな明かりで撮っておけば、後でいくらでも陰影を足せるし、艶だって出せる。女優が気にする皺も消せる。
現場で録音した音声を合成すれば、後からNGを修正できる。
録音も楽になりますよ」
最後に伊藤君は、金屏風の前にいる主演俳優たちを指さして言った。
「あの人たちだって、全部CGに取って代わられるんだ」
その後で、寂し気にこう言った。
「助監督も、理系のコンピューター技術者に取って代わられるかもな」
およそ20年前のある夜の事だった。
しかし、現在でも多くの仕事は残っている。
カメラマンも照明技師も録音マンも消える事は無かった。
だが、消えた者もある。
カメラマンと照明技師と録音マンだ。
残っている人の何倍も消えている人はいる。
確かにカメラの性能が上がり、特別な照明が無くとも
奇麗に映るようになった。
音声もスマホの小さなマイクで録ったとは思えないほど、クリアな場合もある。(人の声が自動で抽出強調されている)
職業が消えたのではなく、形を変えていき、それに対応できないでいると、退場せざるを得ないのだ。(当たり前の話)
伊藤君は幸いにして、生き残っていた。
特別な技術、新しい技術に対応してきたからではない。
営業の得意な人と結びつ、いくらかの新しい技術を調べながら、無難に生きてきた。
伊藤君が生き延びられたのは、ワープロと編集ソフトのおかげだ。
ワープロの無い時代、脚本を始め、書類は全て手書きで作っていた。夜手書きの原稿を印刷所に回すと、翌日の朝に台本として製本されてきた時代だ。
日本中で奇麗な字を書く事が重要視され、子供の頃から
書道を習うのが推奨されたが、伊藤君はずっと字が下手だった。
それが逆に幸いした。ワープロが発明されると、真っ先に手に入れ、自分の脚本や企画書を作り印刷した。
伊藤君は、ワープロでシナリオや企画書を書ける助監督として重宝された。
ワープロやPCが普及すると、
手書きの書類は、どんなに奇麗でも嫌がられるようになり
書道な作品や就活の履歴書など、特別な用途に限られるようになった。
同じ頃、新しい技術やセンスを磨かないカメラマンが
「お前はカメラマンじゃない、カメラ番だ!」
と怒鳴られているのを横目で見ながら、伊藤君は
「何もしなかったら、自分もあんな風に怒鳴られて終わっていただろうな」と思った。
見渡すと、「リアル」と「フィクション」、加工せずに画を決められる者と、合成や加工も含めて判断できる者が残った。両極端だ。
ことの本質は、おそらく「リアル」と「フィクション」だけではなく、「掛かる時間とコスト」の問題だと伊藤君は考えている、という事らしい。
未来について、伊藤君が考える事は、こんな事だ。
チャットGPTがテキストだけではなく、映像にも対応するようになれば、現在のAIによる絵画生成などとは比べ物にならない映像や動画が作れようになるだろう。チャットGPTは、「ノウハウ」や「職人技」をもデータとして吸収するからだ。
その時の「制作に掛かる時間」が、数秒から数分になれば、
多くのクリエーターと呼ばれる仕事は無くなるだろう。
まず、ノウハウだけのクリエーターは転職し、
チャットGPTを使うノウハウで仕事を始める。
次にノウハウも職人芸もないクリエーターは、相変わらず、
コネクションだけで仕事をするから、仕事をくれる人が儲かっている限り失業しない。
最後に職人芸(プロの技術)を持ったクリエーターは、
チャットGPTを凌駕して作品を作り続けるが、
徐々に学習し、進化するものに追い込まれていく。
勿論、全てではなく、最後まで残る技術者も製作者もいる。
それがどれくらいの数で、いつまでか、という答えは、
現時点では予測しずらい。
もし、チャットGPTに、
「チャットGPTが映像の制作を始めたら、将来失業する映像関係者は何%?」
と聞いてみたら、どんな答えを出すだろうか。そして何秒で。
「AI対GPT対職人」・・・『チャットGPTの時代に(その2)』。
おわり
*これはSFでフィクションの物語です。現時点では。
『チャットGPTの時代に(その3)』に続きます。
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