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怪談 超ショート あっという間に読める恐怖の物語。

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実体験、体験者からの伝聞、創作など、様々な怪奇と不思議な短編をまとめました。 #ショートショート #短編 #怪談 #不思議 #恐怖
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2021年8月の記事一覧

「オオクビ」・・・ホラー短編。旅先の旅館、ひび割れから出て来たものの正体は。

『オオクビ』 小春(こはる)は、20歳の誕生日を、4年付き合っている彼氏、真砂人(まさと)と温泉で迎えることにした。 偶然ネットで見つけた隠れ家的な旅館だった。 これと言って特徴のない古い旅館だが、小春はなぜか気になった。 というより、この宿にしなければならい、そんな気持ちになったのだ。 真砂人の方は、最初あまり乗り気ではなかった。 「古くてボロいんじゃないの?」 「でも今、古民家とか流行りだよ」 「じゃあ。まあ小春の誕生日だし。我慢するか」 真砂人は時々、ブー

「似てくる親子」・・・父の晩年を見つめた息子が、己の晩年に感じたことは。

『似てくる親子』 父は晩年、様々な幻視を見ていたようだ。 「『庭にある池のど真ん中に黒服の男が立っていて、 こちらを睨んでいる』とか 『ガレージの車の屋根に喪服の老女が逆立ちしている』とか言うのよ。 ねえ。佳嗣。どう思う?」 と母はよく二階に上がってきて私に相談した。 そんな時の母は、とても心配そうで憐れむような表情を浮かべていた。 これは父の家系のようで、祖父も曽祖父も亡くなる前には同じようなことを 話していたとも母は言った。 スピリチュアル好きな私は、一種の霊感

「終電後。駅の仮眠室」・・・怪談。ひとり残った駅員が体験した事とは。

『終電後。駅の仮眠室』 鉄道会社によって多少違いますが、駅には仮眠室があります。 これは主に始発に対応するためです。早朝にタクシーや自家用車で駅まで来て、入り口を開けるところもあるそうですが、その鉄道会社では駅の仮眠室に駅員が泊まり込む、と決まっていました。 居残りの駅員は、終電を見送った後、駅の入り口にあるシャッターを閉めて構内の灯りを消し、駅員室の奥にある仮眠室で少し眠ります。 そして翌日の始発が走る1時間くらい前、午前4時前には起きて、 再びシャッターを開けるので

「そこに居ないお前」・・・怪談ホラーいないはずの人間と出会ったら、どうするか。

『そこに居ないお前』 始まりは、昼休みに同級生が言った勘違いの話だった。 「坂下。お前昨日、学校サボって自転車でどこへ行ったんだよ」 「昨日? それ誰かと見間違えたんだよ。俺、ずっと風邪で寝込んでたぞ」 「いや。お前だったよ。朝学校に行く途中で黒の自転車乗ったお前とすれ違ったんだよ。南高のジャージ着てたし、長髪で銀縁の眼鏡かけたから間違いないって。なのに声かけても返事しなくてさ。シカトかよ冷てえなって思ったんだよ」 「だからその時間は医者にいたよ。その後はすぐ家に帰

「見知らぬお馴染みさま」 夢乃玉堂

『見知らぬお馴染みさま』 見間違い、人違いというものは誰にでもあるもの。 大概は暫く経ってから気が付いて、 『ああ。あの時、もっと気の利いたやり取りをしておけばよかった』 と、後悔に苛まれる。 蝉しぐれの止まぬ真夏日の午後だった。 稲荷町近くの取引先に、期限前の納品を終えた私は、 さて話のタネでも拾ってやろうと、 東洋初の地下鉄道とやらの改札を目指していた。 雷門を通り過ぎたところで、人混みの中から、 さも親しげに声をかける紳士がいる。 「おおい。〇〇じゃあないか」

「前世を語る女」・・・怪談。ホームで出会った女は私に。

『前世を語る女』 輪廻転生。人は平均して、七回くらい生まれかわる、という人もいます。 前世で縁があった人は今世でも接点を持ち、果たせなかった思いを遂げようとする とも言われています。もし今世でも、目的が果たせなかったら・・・。 「あなた、私のこと好きだったでしょう」 ホームで電車を待っている俺に、見覚えのない女が話しかけてきた。 軽く微笑みを浮かべたその顔は、どちらかと言うとすっきりとした美人で、 服装もカジュアルなワンピース。 どこにでもいるOLという感じの女性であ

「同じ靴」・・・怪談。彼女が選ぶ理由は。

『同じ靴』 里奈は、いつも同じスニーカーを履いている。 最初気付いたのは、仕事帰りに会った時だった。 黒のビジネススーツに不釣り合いの赤いスニーカーを履いている。 「足が疲れるから、ヒールは会社のロッカーに入れて、これで通勤しているの」 そんな言い訳をその時は素直に信じた。 だが、休日のデートでも同じスニーカーを履いてきた。 遊園地でも、クラシックのコンサートでも足元は同じ。 赤いスニーカーを履いてくる。 「履きなれてるから」 「急いでたからうっかりして」 その都

「急かされる風呂」・・・怪談。新人研修の夜に。

『急かされる風呂』 これは友人の小野君(仮名)から聞いた話です。 小野君の働いている会社は、入社してすぐ社員研修があります。 新人に社会人としての基本を学ばせると同時に、 どの部署に向いているか適性を見極めるためのもので、 新入社員全員が参加。 5泊6日の研修期間中は、富士山の近くにある会社の保養所で、 4人一部屋で過ごします。 部屋はトイレバスの他に洗濯室もあり、それなりの広さもあるのですが 男4人が交代で風呂に入るのがやっかいで、 毎夜阿弥陀くじで順番を決めてい

「二人旅」・・・ホラー短編。友人が探し出してきた宿に潜むもの。

『二人旅』 「篠原。落ち込むな。まだ可能性はゼロじゃないぞ」 助手席の結城が、伸ばし放題の顎髭をさすりながら言った。 「幽ナビによると、今日の宿は、座敷童遭遇率32%だ。きっと良いことがあるさ」 「あのサイトのランキングは当てにならないよ。 これまでだって、心霊写真撮影率69%の洞窟。 金縛り率53%のホテル。幽霊遭遇率22%の民宿とか試したけど 一度も奇怪な目に逢った事が無いじゃないか」 「それはお前が一人で行ったからだ。今日は俺がいる。 諦めるにはまだ早いぞ。信

「倒れる女」・・・恐怖の実体験。

怪談会で実際に怪奇なことが起きる、 という内容の「トラブルの多い会談会」というホラーを以前書いたが、 そういう事が時折あるのは経験上確かだと思う。 数年前、とあるライブハウスで行われた怪談会を観に行った時のこと、 人気の怪談師が登場するとあって会場は満員。 私はかなり後ろの席から舞台を観ることになった。 怪談会が始まって数十分。 三人目の語り手が話し始めた頃だったと思う。 私のすぐ前に座っていた長い髪の女が左右に揺れ始めたのだ。 初めは小さなゆれだったが、徐々に大きく