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玉堂デスヨ。

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癒しの日常と、気がついたあの事。人生が豊かになる一瞬。 怪談、恋愛以外の作品も。
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2021年7月の記事一覧

「扉の裏から」・・・ホラー短編。ホテルでアレを見つけた時は。

『扉の裏から』 かすかに寝息を立てている女の横で トオルは寝付けないでいた。 「あの護符のせいだ」 クラブで拾った女を連れて入った、薄暗くて狭いホテルの一室。 歯ブラシを探して洗面台の扉を開いた時、 扉の裏に神代文字が書かれた護符、おふだが貼られているのに気が付いた。 しかしその時は、これから行う行為に気が急いていたので 目立たないところに火除けの護符が貼ってあるんだな、 と大して不思議にも思わなかったが、一通り終わって考え直すとやはり奇妙だ。 目的が限られている

「麻田君に入って来たモノは?」・・・海外の鍼治療を受けた結果は?

『麻田君に入って来たモノは?』   「ハリが良いよハリが。絶対おすすめ! 俺一発で治ったから」   そう言ったのは、強引な営業で知られる先輩でした。  麻田君がもう4年越しで腰痛に苦しんでいると聞いた先輩は、アジアの某国で試した鍼(ハリ)治療を勧めてきたのです。   その先輩が言うにはその国に旅行した時、過労もあって急にぎっくり腰になったのですが、知り合いの紹介で行った鍼の先生のおかげですぐに治ったそうなのです。   アジアでは、鍼(ハリ)やお灸などの伝統療法が今で

「二度目の不安」・・・

二度目のワクチン接種を行った。 今回も、これから接種する予定のある方、接種するか迷っている方など、 様々な方にいくらかの参考になればと思い、接種の状況について紹介します。 7月現在、市の行ってきた一般病院での接種は、止まったままだ。 しかし、自衛隊など大規模接種は行われているらしいので、 市役所では、そちらに行くように案内されている。 接種は前回同様に、予診票の確認と簡単な問診、その後あっという間にほとんど痛みも無く接種が終わった。 今回少し違っていたのは、、 「ど

「チ。ー地球の運動についてー」・・・そのタイトルに込められたもの。そしてそれ以上に。

『チ。ー地球の運動についてー』 魚豊 著 油断していた。 これほどまでに深く考察されている作品であるとは、思わなかった。 15世紀のヨーロッパ。異端を狩る人々とそれでも真理を知りたいという誘惑に贖えない人々を描いている。 第一巻冒頭の刺激の強すぎる描写で、少し距離を置いていたのだが、 再度勧められ、最新の第四巻まで手に取ってみた。 すると、引き込まれる引き込まれる。 苦手だったはずの件の刺激の強すぎる描写も このドキドキの為の下味に思えてくる。 内容は是非ご自身でお

「百年峠」・・・怪談。峠の頂きで見たものとは。

怪談『百年峠』 明和7年の夏といいますから 維新までまだ100年以上ある時代のお話。 出羽の国境にある峠の麓で、 平助というお百姓が畑を耕していた。 平助の畑は、峠越えの道の入り口にあり、 出羽三山に向かう修行僧たちが良く通りかかる。 この日も、篠懸の法衣に、頭襟(ときん)錫杖(しゃくじょう)という いで立ちの山伏が通りかかり平助に尋ねた。 「この先の峠を越えて出羽に抜けるには、どれくらいかかるであろうかな」 平生の平助なら、 「低い峠で、半時ほどで越えられます

「麻田君。愛は妄想だと確信する」・・・永遠の愛を誓う鍵。それは。

『麻田君。愛は妄想だと確信する』 麻田君は、高校時代に何度もアプローチして、ようやく付き合い始めた彼女と別々の大学に入学した途端、別れてしまったそうです。 しかも、破局の理由は遠距離ということではなく、 高校時代から同級生と二股をかけられていたらしいのです。 おまけに麻田君の方が「滑り止め」だったのですから、 彼のショックは容易に想像が付きます。 そこで麻田君は、その月の仕送りが入るやいなや、パスポートを握りしめて ヨーロッパに飛び立ったのです。 当時彼は、「原文に

「エコロの願掛け」・・・もしくは、節約家の願いはどのようにかなえられたか。

『エコロの願掛け』 エコロという節約好きな女性の同級生がいた。 本名は別にあったが、誰もそれで呼ばず、 節約屋、という意味でエコロと呼んだ。 苦学生で一人暮らし、彼女の頭の中は常に節約を考えていた。 服は必要最低限。多少くたびれたくらいでは買い換えない。 家でも電気はほとんど点けず、夜になったら寝る。 外食なんてもってのほか。 食事は毎回おじやを自炊する。お米の使用量が少ないらしい。 バイトも賄いのある食堂か、食品廃棄の多い総菜屋であった。 その癖、夢だけは大きい。

「彩り豊かな世界がそこにあった」・・・今必要な事。

桂米團治独演会 中央会館 東京での上方落語の独演会は、大阪に比べると少ない。 この貴重な機会を逃さず堪能した。 世の中はうっとうしいニュースが続き、気分が滅入る日々だったが、 久しぶりに落語や三味線の軽快な音を聞いていて、さっきまでモノクロの世界にいたことを改めて感じた。色のない世界に、さあっと色が戻ってきたような潤いのある時間であった。 そして何より、落語などの古典芸能を観に行くと、知らない言葉や言い回しを学べる。 今回面白いと思ったのは、 〇家賃を入れて三人家内

「カメラの前に」・・・ホラー短編。深夜のスタジオで起きたのは。

これは、知り合いから聞いた話です。 『カメラの前に』    私がまだ新人のカメラ・アシスタントだった頃の話です。  今は取り壊されてしまったのですが、都内某所に「X」という撮影スタジオがありました。   その夜遅く、新人の私と 、社内でも短気で有名なテクニカルディレターの田中(仮名)さんが残り、翌朝早くから始まる料理番組の撮影のために、4台のスタジオカメラを調整していました。   「2カメを少しアップにしろ。3カメは逆に引け!」   カメラで撮影している映像は、別

「麻田君、失恋を見抜かれる」・・・機織りのお婆さんがかけた言葉の意味するものは?

『麻田君、機織りに失恋を見抜かれる』 旅行好きの麻田君は、社会人になってからも海外出張が多く、 昔個人で行ったことのある場所を再び訪ねることも少なくありません。 かつて、下調べが足りずにトラブルを起こして旅行中に彼女に冷たくされて以来、エーゲ海は麻田君にとってトラウマの海でした。 出来れば、行きたくないのですが、社命とあれば仕方ありません。 失恋から数年後、麻田君はギリシャの観光事情を調べるため、 再びエーゲ海にある小さな島を訪れていました。 友人と待ち合わせているレ

海岸で出会った女性を救う方法は・・・ 『星に願いを』

    私には珍しいSFです。 以前にもこちらに載せたものをさらに改訂したものですが、改めて載せさせていただきます。    『星に願いを』   もうどれくらいになるだろうか。  私は海岸の砂の上に横になり、茜色の空に輝くひとつの星を見つめていた。時折、服にまとわりつく静電気がイライラを助長する。  「ああ。帰りたいなぁ・・・」もし潮騒が聞こえていれば、故郷の景色が心に浮かび、精神の均衡をまともに保っていられなかっただろう。  しかし、幸いなことに私の耳には何も入

「本日、ラヂオつくばで放送されます」

本日、ラヂオつくばの 「つくば You've got 84.2(発信chu)!(つくば ゆうがたはっしんちゅう)」で、私の短編が朗読されます。お時間のある方は是非お聞きください。 番組は17時から。朗読は17時30分か45分くらいからの予定です。 MCはおなじみの小村悦子さん。 つくば以外にお住まいの方は、インターネット放送でもお聞きいただけます。 スマホなら「myTuner Radio」をインストールし、「ラヂオつくば」を選択すると聞けます。 お時間とご興味がある方

「麻田君、嵐の海に昆布をばら撒く」・・・港で遭遇した悪夢のような出来事とは。

旅に出るとお土産を頼まれることはよくあります。  麻田君が入社して最初の夏休みに北海道へ行った時のことです。  出発前、先輩諸氏から当然のように 「期待してるから」と念を押されました。勿論、お土産の事です。  今ならパワハラになりがちな、「期待してるから」ですが、十数年前のこと。当時この会社では、新人でも上司でも夏休みを取ったら、お土産をふるまうのが慣習になっていました。その代わり、夏休みは気兼ねなく取ることが出来、入社から数年はお中元は送らなくても良い、という不文律も

「トラブルの多い怪談会」・・・ホラー短編。心霊現象が起こるという怪談会に参加してみると。

『トラブルの多い怪談会』 「心霊好き・怪談好き」と言っても皆が皆同じ事をするわけではない。 心霊スポットに行くのが好きな人。心霊写真やいわくのある秘仏やミイラなどを見るのが好きな人。怪談や体験談を聞いたり集めたりするのが好きな人など、色々なタイプがいる。 里谷恵一と私は、怪談会巡るマニアである。 怪談会の告知を見つけると、多少遠くても参加した。 その夜も関東近郊の地方都市で行われる、ある怪談会を二人で訪れた。 会場は2時間以上も電車に乗り、少し寂れた印象の駅からさらに1