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『SKY THE SCRAPER』日常のモラトリアムからゲームが生まれる!?【受賞者ドキュメンタリー第2弾】後編


■古淵寮(Ryo Kobuchi)
本職はゲームデザイナー。
幾つかの大手ゲーム会社を渡り歩き、現在は株式会社トイジアムで働き中。
約2年前からインディーゲームの開発を始め、会社としても個人としてもゲーム開発にどっぷり浸かった日々を送っている。

 「SKY THE SCRAPER」は、ビル清掃とモラトリアムをテーマとした「ローグライクビル清掃アクションゲーム」だ。前回に「SKY THE SCRAPER」について、古淵 寮氏に制作秘話を聞いた。


※こちらの記事は『後編』になります。
▼前編はこちら


■余計なものを削ぎ落として企画書を書き、ユーザーからの意見を切り分けていく。企画者としての視点でのゲーム作り


――「SKY THE SCRAPER」の制作にあたって、苦労されたのはどういった部分でしょうか?

🔸古淵:プログラマーでもアーティストでもない自分が、どこまで世の中に通用するゲームを作れるのか……といったところでしょうか。プログラマーではないのでネットを使ってUnityを勉強し、アーティストではないからアセットをどこでどう集めるかも調べていく。こうして作ったものが、製品としての品質に到達できるかどうかに強い意識は持っています。

――コンテストに応募する際、大変だったことはありましたか?

🔸古淵:発表から締め切りまでが2ヶ月と短めだったことですね。応募にはビルドと企画書が必要なんですが、企画書を書いていなかったので、最後の1ヶ月は企画書作りやスクリーンショット撮影に費やしていました。

――企画書が存在しないというのは、個人開発ならではですね。これが会社の仕事なら、まずは企画書ありきとなるでしょうし。

🔸古淵: 企画書の文言も、すごく気を使って選んでいきました。入賞者としてもどこが評価されたのかは分からないので、本当にこれで良かったのかというのはありますが。プレゼンがあるなら、また違った形にしていたと思います。

――企画書も、文言や見た目など凝ろうと思えばいくらでも凝れそうで、「ここで完成」と踏ん切りを付けるのも大変だったのではないでしょうか。

🔸古淵:余計なことはとにかく少ない方がいい。本当に大事なことだけを残すのが大事なのかなと。美しさよりも自分が表現したいものがちゃんと伝わる見た目を意識する方がいいでしょうね。ゲームの雰囲気と企画書で使われている表現が違ったりすると、読み手も訳が分からなくなってしまいますから。そもそも審査員も時間がないでしょうから「伝えたいことだけ教えて」と言われていると思って書く、パッと読むだけで伝わった方がいいだろうということですね。

応募時の企画書の表紙

――必要な言葉だけを残して、無駄な部分は削ぎ落としていく。自分の企画に自信がないと上手くやれないような気がします。

🔸古淵:人間は不安だと言葉を盛ってしまいます。「言葉が足りないと伝わらないかもしれない」と、どんどん説明的になってしまうんです。こういうことが起こるようであれば、文言の選び方ではなく、企画の方に問題があるのかもとすら考えるようにしています。私は、なるべくゲームをひと言で人に言えるようなものにしたいと意識はしていて、「SKY THE SCRAPER」だと「ビル清掃のアクションゲーム」とかいう感じです。そこにプラスアルファして、他のゲームとは違う部分があるというところを、企画書で書けたらいいなとは思っていました。

――企画に問題があるなら、最初の時点まで立ち返らなければならないですね。もしこうした事態が起きたら、どうされますか?

🔸古淵:応募しないというのも勿体ないので、企画にウイークポイントがある、ぐらいのレベルであれば出すとは思いますが、ここで上手く取り繕えたとしても、魅力がぼんやりしたものを作っていかなければならないので、後々苦労する覚悟は必要になるでしょう。逆にそれさえきちんと固まっていれば、それ以外の部分については「私のここには期待しないでね」という情報をきちんと伝えるのも大事だと思います。

――できないことをできるふりをするより、ありのままの企画書を書いた方がいい。

🔸古淵:そうですね。パフォーマンスが出ないところを頑張らないで済むし、作る上でも楽さが違うんじゃないでしょうか。

――2023年7月には京都のインディーゲームイベント「BitSummit Let’s Go!!」に個人枠で出展されていますが、手応えはありましたか?

🔸古淵:皆さんすごくクオリティが高いですよね。チームで勝負されてる方々も多いですし。とはいえ、個人でやっていることを言い訳にはしたくないので、一人の割には良くできているだろうと開き直って臨みました。私が勝負できるのは総合的な体験の部分で、そこはちゃんと戦えそうだという手応えはありました。

――来場者のプレイを直接見ることができて、いかがでしたか?

🔸古淵:何回も失敗を繰り返して遊んでいくゲームとして作ってはいて、アクションパートの難易度はある程度シビアにしていて、ここが受け入れられるか否かが気になってはいたところでした。だから直接プレイを見られたのはありがたかったですね。

――来場者からはどのような感想がありましたか?

🔸古淵:アクションパートでは、スカイがビルから落ちないように「吸着力」のゲージを管理していきます。ここに「楽しい」というご意見と、「もう少し楽をしたい」というお声がありましたので、改善していかなければいけないとは思っています。

――意図的にシビアに作ったものに対し、「楽しい」と「もっと簡単にして欲しい」と相反する意見がきたわけですが、こうした時はどうしておられるのでしょう?

🔸古淵:「個人的な好みとして言っている」or「好みではない」のか。「こちらの説明不足で何かが伝わっていないから、そのように感じさせてしまった」or「伝わっている上で、現在の意見が出た」のか……といったところを咀嚼して分解し、その上でどういう解決をするかを決めていきます。例えば「難しい」というお声があったとしても、UIが悪くてそう感じさせてしまったのかも知れないし、難易度の上げ方が悪かったのかも知れないと色々な可能性がありますから。

――ゲームの難易度をどう設定するかは難しい問題ですね。特に「SKY THE SCRAPER」はスカイが苦難に直面しつつ志を探していく話ですから、あまりに上手くいきすぎても作品の軸がブレてしまう。その一方で、本当の面白さが分かる前に脱落されてしまうのも問題です。

🔸古淵:「SKY THE SCRAPER」では、最初の一週間をプレイして、ゲームオーバーになった時に「もう1回やり直そう」と思えるか思えないかが大事だと考えています。プレイヤーさんには「惜しい」「こうすれば、上手くいったんじゃないか」と感じさせられるようゲームデザインをできるかが勝負なわけです。


■受賞者サポートを使い、良き戦友たちとコミュニケーションしつつ開発を進める


――GYAAR Studioからのサポートの中で印象的だったことはありますか?

🔸古淵:多様な作品を生み出しているバンダイナムコスタジオの皆さんにゲームを見ていただいたり、テストプレイしてもらったりしてアドバイスを受けられるのでありがたいですね。その上で「SKY THE SCRAPER」をゲームとして受け入れてもらえているというのが心強いです。

――「ゲームとして受け入れてもらえている」というのは?

🔸古淵:あまりにも芸術作品的に映ったら嫌だな……と思っていたんですが、そうではないようなので少しホッとしています。また、イベント出展のサポートを受けられたのも良かったです。今年9月上旬にシアトルで行われたPAX Westにも出展してもらえたので、海外でのフィードバックも楽しみにしています。

PAX Westでの「SKY THE SCRAPER」の試遊の様子

――海外のイベントにも出展するというのは、旅費と時間、言葉の壁があってなかなか実現できないですが、ここに支援があるのは大きいですね。ローカライズはご自身で手配されたのでしょうか?

🔸古淵:本作品のPR支援をしていただいているPhoenixxの方が手配してくれました。当初は機械翻訳したテキストを使っていたんですが、海外の方々から「ちゃんとやった方がいい」というご指摘をいただいていたので、すごくありがたかったですね。

――今回のコンテストでは8作品が受賞していますが、他の受賞者との交流はありますか?

🔸古淵:月1回くらいのペースで試遊会を行い、そこで雑談をしたりします。また、専用のSlackチャンネルがあり、皆の進捗状況を見られたりするのがいい距離感ですね。みんな ”状況” や ”開発のフェーズ” 、そして ”作っている作品” も違うので、完全な競争相手というよりはいい戦友がいるという感じです。ライバルがいるというのは、すごくいい環境だと思います。

――ほどよい距離感というのがポイントですね。

🔸古淵:先のフェーズに行っている人に色々と教えてもらったり、教えてもらった人がまた次の人に教えたりと、知識を受け渡ししているのがすごくチーム的でもあり、面白いコミュニティだと思って楽しんでいます。Slackには日報のように使う「タイムズチャンネル」というチャンネルもあり、チーム毎に色々な書き込みをしています。そこにバンダイナムコスタジオの方が「いいね」を押してくれたり、発言をするような程よくユルいコミュニティが形成されています。

――受賞者の立場から「こんなサポートが欲しい」という意見はありますか?

🔸古淵:受賞作に対してもっと意見をもらえてもいいんじゃないかと思います。インディーゲームのクリエイターは視野が狭くなりがちですし、ちゃんとしたフィードバックをもらえる機会もあまりないんじゃないでしょうか。良質なフィードバックを受けられる環境って本当に貴重ですから、色々な分野で相談できるだけでも大きなメリットになると思います。

――フィードバックについては、どの開発者さんも苦労されていますよね。SNSで制作過程を公開したり、友人に試遊を頼んだりと、色々な工夫が行われているという印象です。

🔸古淵:ゲームに対して意見を出すのは、同じ会社内の開発チームならともかく、社外に対してはなかなか難しいものがあります。GYAAR Studioはバンダイナムコスタジオが絡んでいるので、アドバイスするゲーム開発者の層が本当に厚いし、ゲームにアドバイスするべきラインも分かっているのが大きいと思いますね。

――第2回GYAAR Studio インディーゲームコンテストに応募しようと考えている人に向けて、アドバイスをお願いできますか?

🔸古淵:私もどちらかというと学ばせていただいている立場ではあるのでアドバイスというのもおこがましいんですが……結局「自分が何を作りたいか」が全ての鍵を握るので、そこがハッキリしている方が印象に残りやすいと思います。どこかにあるようなものだとスルーされてしまうかも知れないので、自分にしかない癖みたいなものを出していけば、より受賞の可能性も高まるし、面白いものも増えていくんじゃないでしょうか。

――「自分が何を作りたいか」。アイデア出しの段階で、市場やニーズを分析した上で決めていくのか、それとも衝動の方を重視するのか、どちらが良いのでしょう?

🔸古淵:スタートは衝動しかないのかな、と思っています。ただ、その後に肉付けしていく際に衝動だけに任せていくのは、何も見ずに登山するようなものじゃないでしょうか。衝動も分析もどちらも大事です。何を作ればいいか分からないのであれば、ちゃんと内省すれば自分の中に色々なヒントがあるので、あえて自分を分析するのもいいと思います。

――常にアンテナを張り、自分の中にある理想のゲームを探し求めていくわけですね。ありがとうございました。

▼作品紹介:SKY THE SCRAPER
ビル清掃をしながら不確かな夢を追い、日々を生きる若者:スカイを描くローグライク”ビル清掃”アクションゲーム。高所作業のスリルと、汚れを落とすスッキリ感が魅力の清掃アクション。限られた期間を有効に使い、少しずつお金と志を高めながらスカイの進路を2ヶ月以内に見つけだそう。
誰もが一度は感じたことのある、行き場のない焦燥感。この悶々とした日々を抜け出し、その先に見える未来を自らの手で切り拓け。

Steamストア:SKY THE SCRAPER (steampowered.com)

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