5:心の旅
目が覚めると全身の筋肉の張り感を強く感じる。ちょっと起き上がるのがきついが、もう少し寝ていたい気持ちもあったが、すぐ近くの森に飛び出したくなった。
最終日は気温も低くなりひんやりとした風が服と半袖では肌寒さを感じる。
前回走ったトレイルとは反対側の方面を散歩してみることに。
木々に囲まれながらゆっくり歩くとこれまでの経験を振り返り、今後はどんなことができるのだろうかと考えが巡る。
この時、今回の経験について書いてみようと決めた。
旅に出たくなるきっかけは読書から影響を受けることが多い。著者の経験そのものが羨ましいわけでも、同じことをしたいわけでもない。
影響を受ける本に共通するのは書き手自身が活動を通して感じ、考えたことを共有してくれることだ。
書き手の活動自体に興味はなくても、その一連のストーリーは興味深いものになる。もしこの時点まで読んでくださる方がいるのなら、「自分ならどんな旅に出れるのかな」と考えるきっかけとなってくれると嬉しい。
散歩から戻る頃にはキムとトムが朝食の準備をしていた。
「もう走ってきたの?」
「今日は散歩だけ」
富士山を登ることがトムのやりたいことリストの一つという。
富士登山競走というものがあることを伝えると
「これは面白そうだ。キム見てみな」
早速ネットで調べて動画を見ている。日本に滞在して駅伝や日本のランニング文化を調査していたキムなのでその存在は知っていたようだ。
「じゃあこの時期に合わせてまた日本行きを計画しよう」と2人は話す。
「トムが出るなら俺も出るよ」
そうやって軽い約束を交わしているとトムの出勤の時間が来た。
「今回は忙しくてあんまり相手できなかったけど、次回来たときは休みを取って山を登りに行こう」
最後に握手を交わし、息子のセイガンを保育所に連れて家を後にした。
朝の散歩中に決めた今回の経験についてブログに書いてみようと思うことをキムに話すと
「日本語と英語の両方で書いてみなよ。きっと興味ある人がいると思う」
どの程度本音かは分からないが、スタートの一歩を後押ししてくれる人がいるのは心強い。すると今度はキムが博士論文が終わると日本の駅伝について本を書くという目標があることを話してくれた。
そのときはまた日本を訪れて前回できなかった経験をしてみたいそうだ。
その時はまた彼女の旅に関われることを願う。
「なんかめんどくさいな」の出発前からこんなワクワクした気分で終えられる旅だったので何よりだ。
この点はランニングのスタート前と後の気持ちの違いと似ているかもしれない。