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「兵庫の風土」本当の金持ちは芦屋ではなく旧住吉村にいる?
全国的にお金持ちが集積しているといわれる芦屋市。特に六麓荘町という超高級住宅街が有名ですが、現地の方によると、あのあたりは実際には新興系の金持ちエリア。
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実は、兵庫県で最も有名な超高級住宅街は旧住吉村だそう(以下はかつての大邸宅を紹介したパンフレット)。
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今の住所でいえば、東灘区の住吉山手や御影のあたり。日立創業者「久原房之介」のバカでかい屋敷は今はマンションになってますが、まだ大邸宅はいくつか残存しています。
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実際に三ノ宮から自転車で行ってみると究極の激坂エリアで、インナーローの超軽いギアにしてもアップアップの坂の連続。
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まあ、お金持ちは原則「車」移動でしょうから、自転車も乗らないだろうし歩きもしないのでしょう。でも高台で大阪湾を見渡す美しい眺望は、お金持ちたちの特権。さらにこの辺りは神戸にも大阪にも近い、ほど良い距離感の立地で、どっちに通うにもいい塩梅の場所。
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実際に行ってみても、ドローンを飛ばして上から見ないとその実態はわからない感じで、長い長い塀が連続する大邸宅が数多くあるのは、なんとか分かります。
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たぶん山崎豊子が『華麗なる一族』でモデルにした一族がこの辺りに住んでいたのかもしれません。
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そして、なぜこのエリアがお金持ちエリアになったかというと朝日新聞が関係しているのです。
朝日新聞社主の村山龍平が、はじめに明治33(1900)年頃にこの辺りに数千坪の土地を取得。当時、この一帯は六甲山の裾野の荒れ地だったのですが、村山が大阪から移り住んだこと等がきっかけで、明治から昭和初期にかけて大阪の実業家達が競ってこの地域に私邸を構えたらしい。
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村山は当時、資本家仲間の寄合で「翁は、なんでも、広い山を買われたようですな」とからかわれたそう。同じ年、今度は海運業を営み甲南大学の創始者の1人である河内研太郎が土地購入。さらには1904年に住友銀行の初代支配人だった田辺貞吉が私邸を構えるなど、一気に資本家たちの邸宅が次々に建ち始めたのです。
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下の写真の「香雪美術館」は、村山龍平宅の敷地内にあり、村山の号「香雪」にちなんででつけられたのでしょう。今は長期休業中で、コレクションは中之島香雪美術館で展示されています。
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その後、1905年(または1907年)、日本住宅(株)の阿部元太郎と田辺貞吉は、この辺り一帯を住吉村から借り、1万坪あまりの山林を上下水道の完備し た宅地に開発し、一気に郊外の高級住宅街に変貌(「旧住吉村の住宅地開発とその特徴」より)。
中でも実業家たちが取得した土地はみな千坪超で、その広大な土地に巨大な邸宅を建築したのです。のちに住吉村は「長者村」と呼ばれていたそう。
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他には、野村證券創業者の野村徳七宅、今も子孫が住んでいると言われる大林孫三郎宅、住友財閥の住友吉左衛門、日本生命の弘世助三郎、武田薬品の武田長兵衛など、錚々たるメンバーです。
住吉村は、彼ら資本家の支援もあって阪神間で初の私立学校「甲南学園」を開設。さらに地元住民の組合ができ、村民たち自身による積極的な政治参加が高度なまちづくりを実現。
戦後神戸市と合併する際には、住吉村の資産を住吉住民に引き継ぐため「住吉学園」という財団法人を設立し、旧住吉村住民を対象にした様々な支援を実施。
なんとコロナの際には住民に一律3万円配ったそうです(読売新聞記事より)
▪️フランク・ロイド・ライトが設計した大邸宅
なお、芦屋市にはなんと、フランク・ロイド・ライトが設計した大邸宅「ヨドコウ迎賓館(櫻政宗の旧山邑家住宅)」が残っています。土日のみ見学可能なので、激坂登って土曜日に行ってきました。
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建築好きならここは来訪必須です。東京の旧帝国ホテルと同類のライトの意匠が完璧に残っています。
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一眼見ただけで、フランク・ロイド・ライトだとわかるダイニングルームのデザイン。そしてリビングも素敵です。
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窓枠がなんとも美しい。これもライトのオリジナルデザインでしょう。
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バルコニーも。
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バルコニーから芦屋市街地を望む。
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以上、旧住吉村の超高級住宅街も明治の近代化によって誕生したわけですから、以前紹介した神戸港含め神戸という街は、関西における近代日本を象徴する街とも言えそう。
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以上、次回は、日本一の日本酒生産地「灘五郷」について。
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*写真:旧住吉村 白鶴美術館