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『直立二足歩行の人類史』ジェレミー・デシルヴァ著  書評

<概要>

人類学の最新の学説(著者関与の説含む)に基づき、進化の系統樹が多方向であるという事例を「ホミニン(ヒト属またはホモ属=人類)においても同様である」としつつ、直立二足歩行こそ、ヒトをヒトたらしめた要因であると紹介した著作。本書は「人類の起源」を知るにはもってこいの本です。

<コメント>

読後に自分の二足歩行を確かめずには、いられなくなる本。そして1日1万歩、歩きたくなってしまう本。

昨年2022年に出版されたので最新の人類学の学説が紹介されていて、その実情を一般人にもわかりやすく、かつ魅力的な記述で教えてくれているのですが、中でも驚きのエピソードを以下二つ紹介します。

⒈人類は「約700ー600万年前に誕生した」という説はまったく検証できていない

一般に人類学的には「人類は700ー600万年前に誕生した」といわれ、おおよそどの一般書にも同じようなことが書いてあります。

2002年にフランス人古生物学者「ミシェル・ブリュネ」が、チャドのジュラブ砂漠で頭骨を発見し、これを新種として「サヘラントロプス・チャデンシス」と名付けました。これが人類最古の化石としておおよそ700万年ー600万年前とされたのです。

ジャレド・ダイアモンド著『昨日までの世界』でも、ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』でも、日本の教科書でも、みな同じように「人類誕生は600万年ー700万年前」と紹介されています。

ところが、著者がサヘラントロプスの化石を見せてもらうべく、2019年11月にフランスのブリュネの研究室を訪れるのですが、彼はその化石の実物はもちろん、レプリカさえ見せてくれないというのです。

著者曰く

発見から20年も経つというのに、ブリュネと直接かかわりのある研究チーム以外、トゥーマイ(サヘラントロプスの化石の愛称)をみる機会に恵まれていない。実物だけでなく、研究用品質のレプリカも入手できる状態ではないし、CTスキャン画像さえ門外不出である。

本書第四章

そして

「再現性は科学の基本的要素だ。このケースについていえば、独立した研究グループがブリュネのチームの復元作業を再現し、同じ結果が出るかどうか確認してみる必要がある」

同上

と真っ当なことを言ってるのですが、誰もこれができていないのです。つまり科学的検証が未だできていない。にもかかわらず重要な説として、教科書にも掲載されてるし、おおよそ人類学に興味のある人の常識になっています。

著者は「古人類学のダークサイド再び(※)」というタイトルをつけて紹介してるのですが、こんなこともあるのですね。

※「再び」とは他にホミニンとして二番目に古いオロリン(600万年前)という人類の化石(大腿骨頸部)が行方不明になっていることから。つまり一番目に古い化石と二番目に古い化石の根拠がファジーなのが今の人類の起源の証拠なのです。

⒉直立二足歩行の類人猿は既に1100万年前のヨーロッパに存在していた

類人猿は、2千万年前に誕生したのがほぼ定説になっているらしい。

誕生以降さまざまな類人猿が進化と絶滅を繰り返し、アフリカからヨーロッパにも進出。そして2019年、ドイツの古生物学者マデライネ・ベーメが、樹上を二足歩行する類人猿「ダヌビウス」の化石を発見。

本書第五章

ベーメは、上述のブリュネとは異なり、著者デシルバにも化石の実物を公開してくれ、脚の骨の専門家である著者が詳細にダヌビウスの「脛骨上端」を調べた結果、ヒトと同じ直立二足歩行を証明する形状だと著者自身も納得。

そしてもしかしたら樹上生活をしていたダヌビウスが、気候変動によって南下する森を追ってアフリカに戻り、大型類人猿とホミニンの祖先になったのかもしれない、という仮説も成り立つのではないか、と著者は推測したのです。

【従来の説】
①樹上生活をしていた四足歩行の類人猿
②気候変動によってアフリカの森林が減少して草原に
③草原に適応すべく類人猿の一部が地上に下りる
④地上に降りた結果、二足歩行に進化=人類の誕生

【本書の説】
①類人猿が樹上生活適応の一つとして二足歩行に進化
②気候変動による森林南下とともにアフリカに移動
③気候変動によってアフリカの森林が草原に
④二足歩行していた類人猿が地上に下りる
⑤二足歩行を続けたのが人類の起源

ちなみにナックルウォークで四足歩行に戻ったのが大型類人猿(チンパンジー、ゴリラ。

以上、DNA解析などの技術進歩もあって生物学の学説は、こうやってどんどんアップデートされていくので本当に興味深い。


引き続き「なぜ本書を読むとウォーキングしたくなってしまうのか」について別途展開したいと思います。

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