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なぜ日本人の給料は低いのか「日本病」長濱利廣著 私評

<概要>

給料と物価が低く30年間経済成長しない日本の姿を「日本病」と題して、その原因と解決策を探ったエコノミストの最新作(2022年6月出版)。

<コメント>

本書には、日本経済に関する様々な問題が取り上げられていますが、まずは「なぜ日本人の給料が上がらないのか」に関して。

著者の結論は、

「雇用流動性が低いので労働生産性が上がらない。したがって給与が増えない」

企業とその従業員の関係について「釣った魚に餌はやらない」と、なるほどな、という表現で企業が従業員の給与を上げない状況を説明しています。

■「フレキュシリティ」という考え方

それでは雇用流動性を上げるにはどうしたらよいのか?これはノーベル経済学受賞者のバナジット・ラムジーと同じで「フレキュシリティ」というデンマークの社会政策とほぼ同じ主張をしています。

つまり、市場に任せられることは市場に任せるべきであり、そこで貧乏くじを引いてしまった人は助ければよい、という考え方(詳細は以下参照)。

参院選が近いですが、フレキュシリティと同じような政策を公約にしているのは「維新の会」「国民民主党」「NHK党」ですが、国民民主党は労働組合が支持母体なので大企業の雇用流動化は困難か。NHK党はワンイシュー政党なので非現実的。ということで既得権益にしがらみのない「維新の会」の政策が一番現実的かもしれません。

一方で、社会学者小熊英二によれば、大企業型の人口は実は日本人の3分の1でしかなく、その他は中小企業勤めで中小企業の世界では雇用は既に流動化しています。では、なぜ日本全体の労働生産性があがらないということになるのでしょう。

著者は言及していませんが、勝手に補足すれば優秀な人材=エリート層が大企業や公務員などに偏在しており(本人の意志もある)、彼ら彼女らが同じ企業・団体に凝り固まって移動しにくい環境になってしまっているので、ここを変えないと労働生産性は上がらない→給与は低いまま、ということを言ってるのではないかと思います。

この問題は給与が低いだけでなく、日本が経済成長しない理由。個人的には少子高齢化問題の方が大きいと思うのですが、同じ少子高齢化社会のドイツは経済成長しているので、少子高齢化だけが問題ではない、と著者は主張。

確かにそうだな、と私も思ったのですが、ドイツの場合は通貨がユーロで国の実力以上に通貨が割安なので、輸出に有利だというドイツならではの特殊環境の方が大きいのでは、と思います(著者も若干言及)。

とはいえ、エリート層の雇用流動性が低いのは日本が経済成長しない=賃金が上がらない大きな理由だと思うので、まずはエリート層が安心して転職できるような政策の具現化や流動化を阻害するような規制を緩和すべきでしょう。

■「移民」という解決策

あとは以下、原英史の主張するエリート層の移民政策の強化。米国(というか成長産業のほとんどは米国)で成長産業の企業創業者は殆どが移民だというのはほぼ事実です。

実は日本は、古代は渡来人を活用したし、明治維新も外国人をたくさん招聘して近代化したし、過去にたくさんの成功事例があるので、きっとできるはずです(詳細は以下参照)。

■その他専門家の見立て

以下の通り、著者の主張のほか「30年間日本人の給与が上がらない問題」に関するネット上での主張を整理しましたが,みな「経済成長していないから」が主な理由。

なぜ経済成長しないのか?は、おおよそ大企業の雇用流動性の低さを課題にしており、給料が上がらない原因は「既にほぼ明らかになっている」と思います。

なお、一部政党が主張する大企業の「内部留保」の問題ですが、BS上の調達先である内部留保がそのまま資産としての現預金として企業がプールしているわけではありません。設備投資に回っているかもしれないし、そのまま現預金でプールされているかもしれません。BS上の使途である現預金が多くて従業員に給与が回らないということであれば最低賃金を上げるなど、人件費を増やすよう政府が強制するしかない(以下池田信夫の主張も留意)。

もっと大きな視点で語れば、イノベーションのキモは「混ざる」こと、つまり「流動性」です。イノベーションが経済成長を生むのですから、著者の課題認識はまさにその通りだと思います。

■原英史(旧経産省官僚→政策コンサルタント)

*経済成長しないから
→既存産業を保護する規制が多いので新しい産業が生まれにくい
→大企業の雇用流動性が低く、成長産業に人材が移動しない
→移民受け入れ(特にエリート層)

■小林慶一郎(慶応大学マクロ経済学者)

*成長率が低いので企業は見通しが不確実だとして賃金を上げない
*成長率が低いのは淘汰がなく安定的だから

■石川智久(日本総合研究所マクロ経済研究センター所長)

*低成長期なので、終身雇用型の賃金カーブ(若年時に低く高年時の高い)を維持できなくなったから

*賃金を上げない代わりに解雇しないという選択をした(失業率高いが賃金高いのが先進国標準)

■池田信夫(アゴラ研究所所長)

*企業が成長しない中、正社員の雇用を守るために、労働組合が賃下げを認めたから

*パートタイムの人が4割ぐらいに増えたので、平均年収が下がったから

*大企業の内部留保が賃金に反映されないのは、内部留保が増えたのは海外で稼いだ金だから(国内従業員の生産性が上がったからではないから給与上げる根拠にならない)

■大前研一(ビジネス・ブレークスルー大学学長)

*大企業における解雇規制が強く日本人の労働生産性が上がらないから
→デジタル化の遅れが大きい
→IT化に向けた職業訓練が未熟
→終身雇用でキャリアアップができない(大企業の場合のみ)


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