![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/23791236/rectangle_large_type_2_ca70834f062e0aaa7556b0942fad4d65.jpeg?width=1200)
日本社会のしくみ 小熊英二著 日本編 書評
<概要:日本編> *先進国編は別途展開予定
日本社会のしくみは、雇用環境に大きく影響されるとして「大企業型(カイシャ)」「地元型(ムラ)」「残余型(カイシャ・ムラ以外)」の3類型に整理し「大企業型は維持され、地元型が減少して残余型が増加した」のが今の日本社会のしくみだと解説した著作。
<コメント>
社会学の目的は、一つの社会が共有している暗黙のルール(著者曰く「慣習の束=しくみ」)の解明にあるということは、私が興味を持つ社会の虚構(共同体で共有する価値観)とほぼ同じ概念を解明しようとする学問だということだから、社会学に関して個人的に更に深掘りしてみようと思っています。
さて著者は、近現代の「日本社会のしくみ」は、雇用の歴史から紐解くと綺麗に類型化できて、この類型化された単位ごとに考察すべきとの主張は、なるほどそうだったのか、という印象です。
著者は、まずは日本社会を以下の三つに類型化。
①大企業型(人口の26%)
大学を出て大企業や官公庁に正規雇用され「正社員・終身雇用」の人生を過ごす人たちとその家族。大企業の非正規雇用は下の「残余型」に含まれます。
→一般にマスメディアで流通しているのはこの人たちで、人口の4分の1しかいないのは驚きです。私もこの層なんですが、早期退職したからといって、割増退職金がもらえて、30年勤続分の企業年金もあり、退職後2年間は任意継続で健康保険も継続して入会できます(リタイアの場合は1年のみが得です)。現役時代はジムも割安、旅行も割安、人間ドックも割安、いわゆる「フリンジベネフィット」がやたら多い。
さらに退職者用の各種特典もあって「寄らば大樹の陰」という諺は、大企業型を経験すると「確かにその通り」となります。これは官公庁もほぼ同じでしょう。
②地元型(同36%)
地元から離れない生き方。地元の中学や高校に行った後、職業につく。その職業は農業・自営業・地方公務員・建設業・地場産業など、その地方にあるもの。
→地元なんで住宅ローンも不要だし、祖父母含めた大家族も多く共働きメインで、待機児童問題や高齢者の孤独死など、一般にマスメディアを賑わせている日本社会の課題とほとんど無関係な人たち。
更にアイターンした親戚によれば、近所付き合い多く野菜などもほぼ物々交換で経済的負担なし。そして何よりも都会と大きく違うのはお金を使う機会・場所が圧倒的に少ないこと。結果的に収入少なくても何ら問題ないらしい。
③残余型(同38%)
長期雇用があるわけでもないが、地域の足場があるわけでもない人々。都市部の非正規雇用など。所得は低く地域につながりもなくて持ち家がなく年金は少ない。中小企業で転職を繰り返す人もこの層。
→今課題になっている非正規雇用の収入だけの人・家族もここの型の人たちで、更に日本社会の問題は、地元型が減って残余型の人口が増えていること。
「非正規雇用を減らして正規雇用を増やせ」というのが政治問題化していますが、実態は、大企業型の正規雇用は、ここ数十年増減しているわけではなく、むしろ地元型が減ってしまって、その分残余型が増えていること。ここが問題の核心だというのが本書の重要な主張の一つ。
具体的には、地方が商店街の衰退や1985年プラザ合意以降の円高による工場の海外シフトにより、人口減少で過疎化して都市に非正規雇用として流入したり、地元に残っても郊外のショッピングセンターやロードサイドの全国チェーン店に非正規雇用として雇用されるなどして「地元型→残余型」の傾向がここ30年ぐらいの現象。そして非正規雇用の女性労働力と高齢者人口増もこれに加わったのでしょう。
そして現在進行形の新型コロナ問題は「残余型」「地元型の一部」を直撃しています。
「大企業型」は一時金やボーナスへの影響はあるでしょうが、会社が潰れない限りコロナ問題だからといって経済的影響はあまりありません。私のような大企業リタイア組も同様。
特に「残余型」は景気に大きく左右され、この層が今後も増えていくとなるならば絶対貧困を回避すべく「最低賃金の増額」「残余型を対象にした社会福祉制度(年金・健康保険・雇用保険など)の見直し」など、なんらかの政治的対応が必要なのかもしれません。