見出し画像

民主国家と親密な独裁国家「サウジアラビア」

自由の命運からの知見第7弾。今回はサウジアラビア。「第12章ワッハーブの子どもたち」より。

■民主国家と仲がいいサウジアラビア

サウジアラビアは、究極の独裁国家であり、女性差別を前面に押し出した重度の人権侵害国家なのに、イランという共通の敵の存在や世界有数の石油産出国だからといって、なんでこんなに西側諸国と仲が良いのかと思います。

第三者的に比較すれば、サウジアラビアの政治は、中国のウイグル問題やタリバンの女性差別と同等か、それ以上の酷さです。

きっと欧米自由社会にとって「人権や自由という普遍的価値観よりも、もっと重要なことが国際関係には存在する」ということなのかもしれません。

UAE ドバイ 2017年撮影。以下同様

■アメリカが敵視する国家は「核を保有する独裁国家」?

民主主義が普遍的な価値観だという日本含む自由社会は、民主主義とは最も相いれないにもかかわらず、サウジ家が独裁支配する国家「サウジアラビア」とは、長年にわたって友好関係をはぐくんでいます。

さすがにアメリカは、民主主義サミットにサウジアラビアを招聘することはしませんでしたが、仲が良いのは相変わらず。それではアメリカにとっての敵性国家「イラン」「北朝鮮」とサウジアラビアの違いとは何でしょうか?

それは「核兵器を保有しているか?保有する意志があるか?」

それでは、英米仏露中の既存核兵器保有国以外に「新たに核兵器を保有する国家がみな敵性国家なのでしょうか?となるとこれも違います。イスラエルやインド、パキスタンなどは核保有国ですが、アメリカは敵性国家とはみなしていませんし、イスラエルなどは重要な友好国の一つ。

そうするとアメリカが敵視する国家は何かといえば、整理すると

「核兵器を保有する、あるいは開発しようとする独裁国家(中国、ロシア、北朝鮮、イラン)」

となります。これは結果論かもしれません。なぜなら核兵器を保有しないキューバは対象外になってしまいますので。

ちなみにイランは、選挙で大統領を選ぶなど民主主義国家の皮を被っていますが、実際にはイスラム法学者のハメネイ師が最高権力者。大統領はセカンドトップです。

アラビア砂漠

■サウジアラビア建国の経緯

サウジアラビアは、アラビア半島内陸部のナジブ地方にルーツを持つサウード家のムハンマド・イブン・サウードが、同地方出身のアル・ワッハーブというイスラム教を最も厳格に運用するハンバル派(=イスラム原理主義)のウラマー(宗教指導者)とタッグを組んで誕生させた国家。

アル・ワッハーブは、ハンバル派の解釈をさらに推し進めて派生したワッハーブ派を率い、ワッハーブ派の厳格な教えに従わない諸派に対し聖戦を目論み、これに乗っかったのがサウード家。

サウード家はアル・ワッハーブの教義を大義名分にして各地で聖戦をしかけ

1803年:アラブ半島全域(イエメン・オマーン除く)を征服
1818年:オスマン帝国に制圧されますが、
1824年:サウード国家が再建され、今度は
1891年:他部族にふたたび制圧されてサウド家はクウェートに逃亡。
1902年:建国者のひ孫の孫にあたるアブド・アル=アジーズ・ビン・サウードによって復活し、

今に至る、という感じです。

このような経緯は、アフガニスタンを征服したタリバンとあまり変わりませんね。アル・カイーダのビン・ラディンがサウジアラビア出身だというのも納得です。時代が違うので安易な評価はできませんが。。。

ドバイ旧市街

■サウジアラビアの政治制度

規範の檻(社会規範)とリヴァイアサン(政治権力)が合体すると強力な専横のリヴァイアサンが誕生します。それがサウジアラビア。

コーランには政治体制にかかわるスーラ(章)はたった二つしかなく

一つは  「権威への服従を強調するもの」
もう一つは「砂漠のベドウインの規範である協議を呼びかけるもの」

つまり政治権力は、どのように統治しようとも解釈の余地がある教義。しかも税の徴収に関してはアル・ワッハーブと組むことで「宗教税ザカートを支払うべし」という教義にのっとって税を徴収することも可能。

1788年にアルワッハーブは、サウード家が世襲アミールであり、すべてのワッハーブ派が支配者であるサウードに忠誠を誓わなくてはならない、というファトワー(※)を発行した。サウードの専横は、ワッハーブの規範の檻と融合しつつあった。
※ファトワー=ウラマー(宗教指導者)がイスラム法学に基づいて発行する勧告

自由の命運 下 第12章

とし、サウード家の独裁は宗教的裏付けとともに世襲。

1960年代に異母兄のサウードを失脚させ最高権力者になったファイサルは、政教一致政策をさらに推し進め、ウラマーとウラマーが発行するファトワーの発行を牛耳り、政権を強化。

ドバイ ブルジュハリファ:世界一高いビル

■女性という不可触民

サウジアラビアの規範の檻の主な執行人は勧善懲悪委員会で、そのメンバーはムタワと呼ばれ、英語では一般に宗教警察と訳される。

同上

ここでも、タリバンが特殊なのではなく、イスラムのリヴァイアサンは皆似たり寄ったりだ、というのがわかると思います。勧善懲悪委員会はサウジアラビアにも存在しているのです。

なぜ女性が不可触民かといえば、女性は近親者以外の男性に触れてはいけないから。挨拶での握手はもちろん、救命治療でさえ医者が男性であれば触れることはできません。これを管理しているのが上記の宗教警察。

女性は完全に男性の保護下にあり、女性は必ず男性の後見人が必要とされ、旅行・銀行口座開設・アパートの賃貸借契約・パスポート申請など、様々な行動に男性後見人の許可が必要。

ウラマーの大評議会が出した以下ファトワーも究極の女性差別

「女性は夫の許可がなければ家を出てはならない」

同上

我々の社会でいえば、女性は中学生の子供よりも低い扱い。中学生だったら親の許可なしに外出できるでしょう(家庭にもよりますが)。

それではコーランでは明確に女性差別を認定しているかといえば、以下、二つの文言がこれにあたるといいます。

コーランの第4章34節にはこうある。「男性は女性の保護者であり、擁護者である。それはアッラーが一方の者に、他方の者よりも多く[の力]をお与えになったからであり、生活に必要な費用を男性が賄うからでもある」。これはサウジアラビアでは、女性が子どもと同様、男性の支配下にあることを意味すると解釈

同上

また622年に成立したムハンマドのメディナ憲章のうち

第四一条「女性は家族の同意をもってのみ保護を与えられる」

同上

以上、サウジアラビアという国には興味津々で今後も注視したいと思います。

ドバイ:世界一美しい(と言われる)スターバックス

【付録】UAEでの女性差別体験と日本

実際に私が観光したのは同じような体制のUAE(アラブ首長国連邦)。2017年冬(最高の避寒になるのでオススメ)に涼しくて過ごしやすいドバイとアブダビに行ってみましたが、サウジと似たような国家体制で、優秀な王家の子孫たちがリーダーシップを発揮して国を発展させている様子がよくわかります。

実は女性差別というのは、女性優遇の一面もあって、女性は一人前扱いされていないわけですから、UAEでは子供と同じ弱者とみなされ大切に保護されていています。バスの乗車なんかも女性と子供が先に乗って男性が後に乗る、という具合です。

したがって女性差別は、著者のいう不可触民や被差別部落の「穢れ忌避」から生まれる差別ではなく、

「女性は男性の大切な宝物」

という感じ。でもこれが女性差別の本質なんですね。「女性を弱者とみなす」ことから派生する差別なんです。

だいぶ解消されたとはいえ女性を弱者とみなす法律は日本にもあって、私が新入社員だった1990年代初頭は、20時半以降は女性は働いてはいけないことになってしました。

それでも未だに残存しているのが配偶者控除などの専業主婦優遇制度。「女性は弱者だから家に閉じこもって家事をしていなさい」と言わんばかりの制度ですが、公明党の反対でこの法律は当分なくならないみたいです。

アブダビ シェイク・ザイード・モスク

*写真:アブダビ シェイク・ザイード・モスク(ココは必見!!)
    世界一(のサイズ)と言われるペルシャ絨毯

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?