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地理・歴史学

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人の価値観は、外的環境に大きく影響されます。地球全体に関して時間軸・空間軸双方から、どのような環境のもとで我々が今ここにいるのか?解明していきたいと思っています。
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#イスラーム

ユダヤの風土:イスラエルとは、どんな国なのか?

ユダヤのアシュケナジ系言語イディッシュ語を研究している社会言語学者、鴨志田聡子先生の「現代イスラエルとユダヤ人」に関する講義を受けたので、まとめがわりにここで整理。 なお、イスラエルは1948年建国時、そうはさせまいと近隣のアラブ諸国がよってたかってなきものにしようと戦争仕掛けられましたが、イスラエルも負けじとエジプトのシナイ半島を一時占領するなど、生きるか死ぬかの領土争いが今現在も継続している地域。 そしてイスラエルによるパレスチナへの入植は、国際法的には明らかに違法で

イスラーム世界のユダヤ教『物語ユダヤ人の歴史』より

引き続き『物語 ユダヤ人の歴史』より、7世紀のムハンマドを始祖とするイスラーム教の拡散から20世紀のオスマン帝国滅亡までのイスラーム世界における、ユダヤ教の状況について紹介。 ⒈イスラーム世界では、ユダヤ教は同じ一神教の仲間イスラーム教は、ユダヤ教→キリスト教→イスラーム教の順序で、一神教がバージョンアップしてきた最新の一神教、というように自分たちを位置付けていたので、ユダヤ教・キリスト教に対しては、同じ神の啓示を受けた聖典をもつ一神教の仲間として敬意を払っていました(「ア

「アフリカの風土」西アフリカにおける南北問題とは?

西アフリカの悲劇は、文化圏の違う北の内陸部(イスラーム圏)と南の沿岸部(キリスト教圏)を分断するように、欧州列強の植民地化によって国境が恣意的に区切られてしまったことです。 西アフリカの北部=内陸部はニジェール川流域で、16世紀にヨーロッパがサハラ以南に進出するずっと前の、7世紀後半からイスラーム文化が西アフリカ北部(=サハラ砂漠の南端=サヘル地域)に浸透していました。 一方でヨーロッパが進出した西アフリカ南部=沿岸部は、数百年続く奴隷貿易の舞台となりつつ、19世紀に始ま

知的アンカラガイド『トルコ100年の歴史を歩く』読了

<概要> トルコの首都アンカラ在住の著者が2023年トルコ共和国建国100周年にあたって、アンカラをテーマにトルコの歴史・地理・文化・政治経済を網羅的に扱った新書。 <コメント> 昨年2023年はトルコ共和国建国100年ということで、イスタンブールによりがちなトルコではなく、トルコ共和国の首都アンカラを主役にした現代トルコの生き様を本書で味わうことができます。 ただし「読み物そのもの」としては、ちょっとダルな印象。 地区ごとに大使館があるとかないとか、本屋があるとかない

トルコからみた世界『トルコ 中東情勢のカギをにぎる国』内藤正典著

<概要>現代国際情勢におけるトルコの役割とその存在価値について、解説した著作。2015年出版なので情報は古いが、東西の橋渡しにして西側から見たイスラーム圏の窓口、そしてNATO加盟国という、トルコならではの独自のポジショニングが興味深い。 <コメント>西欧列強からの圧力を自力で回避し、最後には民主的近代国家を立ち上げた、という点で、日本とトルコはよく似ています。 ところが、近代国家を成り立たせるために活用した大義名分が真逆というのが面白い。 近代化においては、西欧もトル

トルコ民族とは何か?『トルコ民族の歴史』坂田勉著 読了(2024年3月改訂)

以下内容、トルコ系民族ハザール人のユダヤ教改宗について「誤った」と思われる内容あったので改訂しました。 <概要>トルコ系言語を話す人々=トルコ系民族に焦点を当て、それぞれの地域ごとにトルコ系諸民族がどのよう経過を辿って今に至るのか?特に宗教の時代(中世以前)から民族の時代(近代以降)への移り変わりの中で、トルコ系がトルコ系として、どのように民族意識を獲得していったのか、が紹介されている著作。 <コメント>トルコ民族とはどんな人々なんでしょう。中世の「宗教の時代」から近代の

『イスラム飲酒紀行』高野秀行著 読了

『謎の独立国家 ソマリランド』を読んで以来、著者高野秀行のファンですが、高野秀行のイスラーム論『イスラム飲酒紀行』も実に面白く、あっという間に読んでしまいました。 ⒈イスラーム教と飲酒過去にも紹介しましたが、コーランでは飲酒は禁止していません。 酔っ払ったまま礼拝することを禁止しているのです。ただ1日5回礼拝があるので実質一日中酔っ払えない、ということ「つまり飲酒できない」ということです。 本書は「飲酒紀行」と称しながら、イスラーム文化ガイド的性格を持っています。 世

『オスマン帝国500年の平和』林佳世子著 読了

<概要>強大な軍事力と中央主権とイスラーム法に基づき、500年もの間継続したバルカン・アナトリア・中東・北アフリカを統治した最後のイスラーム国家の興亡の詳細を紹介した書籍。 <コメント>来月2023年7月、ギリシア哲学のルーツ探訪をメインに、トルコ・ギリシア(トロイ→レスボス島→サモス島→ミレトス→イスタンブール→アンカラ→ロードス島)を旅行するにあたって、13年前に通読した本書再読。 書き手の上手さもあって、400頁近くの大著にもかかわらず、要点をかみしめながら一気に読

『戦火の欧州・中東関係史』福富満久著 書評

<概要>「オスマン」という、長年「トルコ」「アラブ」「ペルシャ」「一部ヨーロッパ」地域を支配してきた「帝国」が瓦解していく時代において、欧米が同地域でどのように自分達の国益を拡大させていったか?そしてその結果、今に続く戦火が絶えない不安定な地域になってしまったか?をわかりやすく解説した書籍。 <コメント>本書を読むと、有史以来、残念ながら今に至るまで、世界は「道徳」で動くのではなく「暴力」で動くのだ、ということが実感できます。 著者が副題とした「略奪と報復」というのは、有

カタールの風土「アラブ部族:天然資源編」

カタールは、四つのキーワード「砂漠」「イスラーム教」「アラブ部族社会」「天然資源」で説明できるのでは、という私の勝手な解釈のうち、今回は「アラブ部族社会」「天然資源」について。 ■イスラーム帝国からアラブ部族国家へ「本来、イスラーム教徒(ムスリム)の国は、イスラーム教の教義上、アッラーが治める一つの共同体(=ウンマ)ということになっており、その代理人としてのカリフをリーダーとするわけですが、オスマン帝国の崩壊以降、イスラーム統一国家は未だ誕生していないし、誕生する気配もあり

カタールの風土「砂漠・イスラーム編」

実はサッカーのワールドカップ観戦で、2週間以上カタールに滞在したので、カタールという国について、風土論的に整理しておきたいと思います。 カタールという国家の特徴は「砂漠」「イスラーム教」「アラブ部族社会」「天然資源」という4つのキーワードで説明できそう。 これは湾岸のUAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、クウェートとほぼ同じ性格で、これらの国は、一般にレンティア国家(※)ともいわれていますが、どれもこの4つのキーワードで整理できる国家ではないかと思います。 まずは自然環