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multiplier197
【ショートショート】『ビール傘』
時々、あるブログページを開いてみる。最新の記事は彼女が前から気になっていたお洒落なカフェに行ってきたというお話。カフェは、かつて僕と暮らした街の郊外にあった。僕にはとても一人で入れない世界が広がるその店の記事は綺麗に撮られた写真も添えられていた。生存確認と言ったら多分怒られるけど元気そうで何よりだ。
あの頃は、二人でなけなしのお金をかき集めてはふらふらと歩いて、食べて飲んだ。淡々とした文章は、彼女の化粧っ気の無い顔と気取らないファッションを思い起こさせた。最後の写真に写る透明のビニール傘もそんな彼女らしい。こんな文章が添えられていた。
『帰り道は雨。わたしはこの傘がお気に入り。きっとずっとこの”ビール傘”だ』
◇
いつかの雨降りの日、銭湯帰りに二人で寄った居酒屋チェーンの安いビールを飲んでろれつが回らない僕は、カミカミで言ったのだった。
「僕が持つよ。ビール傘」
げらげら笑い過ぎた彼女はしゃがみ込んで涙を拭いた。
(410文字)
* * *
以上、こちらからお題をいただきました。