【ショートショート】『Getcha back』
すっかり涼しくなった夕暮れ時の縁側に二人で下駄を履いて座っている。
焼酎ロックが旨い。
「ねえ、私がお嫁に行った時、どう思った?」
「え、もう忘れたよ」
遠くの虫の音が心地よい。
「ねえ、私に振られた時、どう思った?」
「泣きたかったよ。泣く気力さえあったらね」
視線は亡き母の下駄を履く彼女の爪先のまま。
「あの時はそうするしかなかったの」
「もう今更だけどね」
別れてから別々に結婚した。でも今はバツイチ同士並んで座る。
「あたし気づいたの」
「へえ、何に?」
「あなたにはあたしが必要だって」
「ぷっ!」
口に含んだばかりの焼酎を盛大に吹いた。
でも、くやしいけれどそのツンデレぶりも百点満点だよ。
なくしてから気が付いたんだ。何気なく淹れてくれるコーヒーの美味しさや、選んでくれるただの白いシャツの生地の手触りと着心地の良さ。
「執念第一ね」
「なんだそりゃ」
「じゃなきゃあなたはきっと戻ってこなかった」
そうかもね、たぶん。
もういいよ。
君も呑むかい?
(410文字)
* * *
一周年おめでとうございます。
以上、こちらからお題をいただきました。