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【掌編】『月を待つ』

月が起きる前に僕は出かけた。日が暮れた頃、仕事を終えて帰った家に月はもういなかった。

月は僕が帰る少し前に出かけるのだ。夜の仕事は割が良いらしい。家計の大部分を月が担っていた。

ある日、帰ると月からの置き手紙があった。

『何か欲しいものはありますか?』
『欲しいものは、月。今度いつ会える?』

ほどなく迎えた三日月の日、深夜に大きな地震があった。
月は不在だった。朝になっても帰らなかった。

仕事に出かけるの止め、家の前に座り込んで待った。
三日三晩待って、待ちくたびれて眠った。

気が付くと僕は月の膝まくらで寝ていた。

『やあ、いったいどうしていた?』
『久しぶりね。地割れの中に落ちて気を失ってたの』

月は、覆いかぶさるように軽く口づけをする。そのままもつれて抱き合った。

もしかするとこれは夢なのか。
ならば、いつから夢の中にいたのだろう。

月は僕の短い髪をかきあげると、首筋から耳へと乾いた唇を移した。ほんの少しだけ吸い付き唇を離す。その微かな音が愛おしい。

あまりの心地良さにされるがままに漂った。

やがて地面は、ぱっくりと口を開け僕をのみ込んだ。

 

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