
Photo by
monokakiko
【ショートショート】『オノマトペピアノ』
”pp”
「ピアノピアノ」
ベッドで片肘をついて譜面を眺めている僕の前に無理やり君は割り込んでくる。”p”はピアノだってことは知っているらしかった。
「それはね、ピアニッシモ」
解らない人にとっては記号だらけの呪文のような楽譜というものは、人の感情を揺さぶるために必要なものとは限らない。
心に響く声で皆を虜にする君。
僕のピアノの師匠のいる街の路上で君は歌っていた。音大の入試に失敗したことを師匠に報告したその夜も駅前で歌っていた。
あの日、君の声が皮膚から心臓の真ん中まですっと染み入るような感覚になりそこを動けなくなってしまった。
二人で寝っ転がると君のベッドはギシギシ煩かった。「この頃眠れないんだ」そんな僕の耳元でどこか懐かしい歌を優しく歌ってくれた。気が付くと朝だった。
君の歌に僕のピアノを付けた動画はあっという間に人気になった。今やライブだってソールドアウト。
「イントロは、ピアノピアノでね」
今日のアンコールはあの子守歌。
(410文字)
* * *
以上、こちらからお題をいただきました。