【保存版】風景写真で失敗しないピント合わせの方法 〜パンフォーカス完全マスター〜
海外の写真家のように、山岳写真で手前の花や岩から遠くの山々まで、すべてにピントが合ったシャープな写真を撮影したい場面が多くありますよね。
この記事で解説したように、海外の風景写真では手前から奥まで完全にパンフォーカスするのが当たり前の技術として活用されています。
しかし、カメラやレンズの特性上、被写界深度(ピントが合う範囲)には限界があり、手前にピントを合わせると奥がぼやけたり、その逆になったりすることがよくあります。絞りすぎると画質が低下するため、しっかり学ばないと実践するのが難しいのが実情です。
手前から奥までピントが合った理想的な写真を撮影するためにはいくつかの方法があります。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるので、撮影シーンや目的に応じて使い分けることが必要です。
ここでは、「パンフォーカス」「フォーカススタッキング」「過焦点距離」の3つのテクニックについて解説していきます。
1. パンフォーカス撮影:最も手軽で一番撮影頻度が高い方法
パンフォーカス撮影は、写真全体にピントが合っている状態を指し、近景から遠景までシャープな描写を実現する一般的で最も容易な撮影技法です。
風景写真やスナップ写真でよく用いられ、被写界深度(ピントが合う範囲)を深くすることで、手前から奥までピントが合ったように見える写真を作り出します。
パンフォーカス撮影の方法
パンフォーカスを実現するためには、以下の設定やテクニックが必要です。
1. 広角レンズを使用する
広角レンズは望遠レンズよりも被写界深度が深いため、パンフォーカス撮影に適しています。焦点距離24mm以下(フルサイズ換算)のレンズがおすすめです。例えば16mmや20mmの超広角レンズは、風景写真で特に効果的です。
2.F値(絞り値)を大きく設定
F値を大きくする(絞り込む)ことで被写界深度が深くなります。一般的にはF8~F16程度が目安ですが、F22以上では回折現象による画質低下が起こるため注意が必要です。
3. ピント位置を手前1/3に合わせる
被写界深度は「手前1/3、奥2/3」の割合で広がります。そのため、構図内でピントを合わせたい範囲の手前1/3あたりにピントを合わせると効率よく全体にピントが合います。
4. 被写体から適度な距離を取る
被写体に近づきすぎると被写界深度が浅くなり、パンフォーカスになりません。一定の距離(例:2m以上)を保つことで広い範囲でピントを合わせられます。
5. マニュアルフォーカスで固定する
オートフォーカスでは微妙なズレが生じる可能性があります。最初に適切な位置でピントを合わせたらマニュアルフォーカスに切り替えましょう。
具体的な設定例
以下は一般的なカメラ設定例です:
レンズ: 焦点距離24mm以下の広角レンズ推奨
絞り値(F値): F8~F16 ※被写体との距離による
ピント位置: 手前1/3が目安
撮影モード: 絞り優先モード(Avモード)
三脚使用: 必要に応じて使用し、カメラブレを防止
パンフォーカス撮影のメリットとデメリット
メリット
気軽に実践できる
特段計算も不要であり、ピント位置のミスによる失敗が少なくなるため、初心者にも扱いやすい技法です。
難しいこと考えずに、すぐ実践できるため、この撮影方法が最も使用頻度は高いと思います。
デメリット
画質低下のリスク
F22などと大きくしすぎると回折現象によって解像度が著しく低下します。主題が不明確になる場合もある
他の撮影方法でも同じですが、パンフォーカスでの撮影はピントが合う全体が主題となるため、意図せず何でもパンフォーカスで撮影すると主題が不明確な写真になりやすくなります。
暗所ではシャッタースピードが遅くなる
絞り込むことで光量が減少し、暗所ではシャッタースピードが遅くなるため手ブレや被写体ブレのリスクがあります。被写体との距離を置けないときは使えない
手前10cmにある花から奥の山まで撮影しようとした場合、例えF22に絞っても全体にピントを合わせることができません。
2. 過焦点距離:プロも活用する慣れれれば比較的手軽に撮影できる方法
過焦点距離とは?風景写真で手前から奥までピントを合わせるための技術
ただ絞るだけで、効果的にパンフォーカスできるのが「過焦点距離(Hyperfocal Distance)」という概念です。少し計算の手間はありますが慣れれば計算も不要になり、アマチュアからプロまで誰もが活用できる撮影方法です。
過焦点距離はセンサーサイズによって変わる
カメラのセンサーサイズによって、過焦点距離は変化します。センサーサイズが小さいほど過焦点距離は短くなるため、小型センサーのカメラ(例:マイクロフォーサーズ)は、フルサイズセンサーのカメラよりもパンフォーカス撮影に有利です。
登山では小型軽量なシステムで効率よくパンフォーカス撮影を行いたいニーズがあるため、マイクロフォーサーズカメラが非常に適しています。ただし、星景写真は撮影する場合は、フルサイズの方がノイズの点で有利なため、可能であればマイクロフォーサーズ1台、フルサイズ1台が理想的だと個人的には考えています。以下の記事に考えをまとめています。
過焦点距離を使った撮影方法(アプリ活用編)
過焦点距離を正確に活用するには計算が必要ですが、スマホアプリを使えば簡単に設定できます。ここではアプリを使った具体的な撮影手順をご紹介します。
1. スマホアプリで過焦点距離を確認
以下のようなアプリを使用すると便利です:
PhotoPills(iOS/Android対応)
使用しているカメラ、レンズの設定をすると過焦点距離や被写界深度範囲を瞬時に計算してくれます。
アプリの使い方:
カメラモデルを選択
絞り値(F値)を設定。
被写体との距離を設定
アプリが自動的に「過焦点距離」と「被写界深度範囲」を表示します。
例えば、「24mm」「F8」「フルサイズセンサーのNikon Z8」の場合、過焦点距離は約2.43mと表示されます。アプリで確認した過焦点距離にピントを合わせて撮影を後はするだけです。
このときのポイントは以下の通りです。
三脚使用: 手ブレ防止と構図固定のため三脚がおすすめです。
ISO感度: ISO感度は最低値(64 or 100)に設定して画質劣化を防ぎます。
シャッタースピード:輝度差が大きい場合には、シャッタースピードをブラケットで撮影しておくと、白飛び、黒つぶれを防ぐこともでき、最高の素材を撮影することができます。
注意すべきポイント
正確なピント合わせ
過焦点距離は理論上の数値なので、実際には若干ズレることがあります。被写体との距離を見誤ることで計算が狂うリスクも考えられます。
撮影あとは拡大表示で確認するのは欠かせません。回折現象への注意
絞り値を大きくしすぎると回折現象によって画質低下が起こります。
一般的にはF8~F11程度がおすすめです。それ以上は次のフォーカススタッキングを検討した方がいいかもしれません。
3. フォーカススタッキング:被写界深度合成
フォーカススタッキング(被写界深度合成)は、ピント位置を少しずつ変えながら撮影した複数の写真を合成し、全体にピントが合った写真を作る技術です。この手法は、被写体との距離が近距離で過焦点距離では撮影が難しい場合に活用しています。
フォーカススタッキングが必要な理由
1. 被写界深度の限界
過焦点距離を活用したり、カメラの絞り値(F値)を大きくしても、被写界深度には限界があります。
2. 絞りすぎによる画質低下
絞り値を極端に大きくすると回折現象(小絞りボケ)が発生し、画像全体のシャープさが損なわれます。これを避けるためにもフォーカススタッキングは有効です。
フォーカススタッキングの手順
1. 撮影準備
三脚を使用: カメラを固定して撮影することで、位置ズレを防ぎます。
マニュアル設定: ISO感度、シャッタースピード、絞り値などは固定します。同じ条件で撮影することで合成時の失敗を防ぎます。
適切な絞り値: レンズによって変わりますが、F6.3〜8程度が最もレンズの解像度を高めることができ、また撮影枚数も最小限に減らすことができるため推奨されます。当然、回折現象も抑えられます。
2. 撮影
ピント位置を手動調整
手前から奥へ少しずつピント位置を移動させながら複数枚撮影します。「フォーカスシフト撮影」機能搭載のカメラで自動撮影
Nikon Z8やZ6III、Sony α7R Vなどの一部の最新カメラにはフォーカスシフト機能があります。これらのカメラでは、自動的にピント位置を変えながら連続撮影することが可能です。風景写真での撮影がメインであれば、これらの最新機種に買い替えるメリットは十分にあると私は実際に使用して感じました。
登山では体力も大きく削られる中、特に冬にグローブをつけながらいちいちフォーカスを手動で動かすのは現実的に困難です。。
α7RIIIを使用していた時はあまりにストレスで、過焦点距離ばかり使用していましたが、若干ピント甘かったり、うまく撮影できないこともあって悔しい思いをしたこと数知れず。。
3. 合成
撮影した写真を専用ソフトウェアで合成します。以下は代表的なソフトウェアです:
Helicon Focus: フォーカススタッキング専用ソフト。処理速度が速く、高精度な合成が可能です。合成時の問題を効果的に修正でき、プロの方が愛用しているソフトです。
Photoshop: レイヤー機能を使って簡単に合成できます。Creative Cloud会員なら追加費用なしで使用可能なので、不満があればHelicon Focusを使用するのが良いかと思います。
メリットとデメリット
メリット
近距離の被写体でも手前から奥までシャープな写真が作れる。
回折現象による画質低下を回避できる。
レンズにとって最適なF値で撮影できるため、高解像度で細部まで鮮明な描写が可能。
デメリット
撮影と合成に時間と手間がかかる。
動く被写体には不向き(風景写真では風による揺れも注意)。
専用ソフトウェアや高性能パソコンが必要になる場合もある。
注意点とコツ
撮影時はカメラや被写体を完全に固定すること(三脚推奨)。
ピント移動量は被写体や目的に応じて調整する。移動量が大きすぎるとピントの合わない部分が残る場合があります[6].
合成後、不自然な部分は手動で修正することも検討しましょう。
まとめ:シーンごとの使い分け
風景写真で手前から奥までピントを合わせる方法には、それぞれ特徴があります。以下はシーンごとのおすすめ方法です:
近景と遠景の距離差が小さい場合
→ パンフォーカス(広角レンズ+適切なF値+1/3ルール)
近景と遠景の距離差が大きい場合
→ フォーカススタッキング(複数枚撮影+後処理)
効率よく単一ショットで撮影したい場合
→ 過焦点距離(正確な計算+適切な設定)
どれも一長一短がありますので、自分のスタイルやシーンによって最適な方法を選んでください。
撮影に手間取ってしまうようであれば過焦点距離、もし三脚を使用する溶融があれば被写界深度合成をするのが最適解かなと私は考えています。
もっと詳しく撮影技法について学びたい方は、記事で紹介したナショナルジオグラフィックの書籍が非常にお勧めです。
登山で使用するカメラを検討したいと思った人は、以下の記事も参考にしてみてください。