薬局薬剤師のお仕事⑥ 在庫管理
「薬局薬剤師のお仕事」シリーズ。
第六回は「在庫管理」です。
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「薬局なのに薬が無いなんて。そんなことあるの?」
これはちょうど先週、処方せんを持ってきてくれた患者さんに対して、
「このお薬は在庫がありませんので、お取り寄せとなります」
と伝えた際に、言われたセリフです。
お恥ずかしながら断言します。
そんなことありまくりです、と。
さて調剤薬局の業務を紹介するこのシリーズ。
第六回目は「在庫管理」です。
在庫管理は地味だし、そもそも調剤薬局にとって「本質」となる業務ではありません。
でもこれを怠れば、薬局の経営は傾きます。
それだけ大切なものです。
今回は、私が一番好きな仕事である在庫管理の世界を、少しだけ堪能していってください。
それでは最後までよろしくお願いします。
薬局に薬がない?
皆さんは、医療用の医薬品はどの程度、種類があると思われますか?
厚生労働省による令和元年の発表によれば、約16,000種類だそうです。
これを全て取り揃える、というのは土台無理な話で、一般的な薬局であれば、在庫する医薬品の種類は1,500品目前後が多いです。
つまり薬局は、世の中にある薬のうち、10分の1も在庫していないということになります。
その理由の一つはもちろん、「スペースの問題」です。
どんどん増えていく薬、品目によっては施錠が義務付けられているものもあります。
しかし調剤室のサイズは薬局を建てた時と変わらないため、やがてスペースを圧迫していきます。
私の働いている薬局では、1,500品目で既にスペースはギリギリです。
正直、2,000品目となると、物理的に置けません。
そしてもう一つは「お金の問題」です。
日本で最も高額な医薬品
皆さんに「めちゃくちゃ高い薬」の紹介をしましょうか。
「ゾルゲンスマ」という注射薬です。
とある難病の治療薬ですが、これが現在、日本で最も高額な医薬品となります。
おいくらでしょうか?
10万円ぐらい?
いやいや、100万円ぐらい?
桁が違います。
正解は、1億6700万円。
日本の正社員の生涯年収は中央値で1億9000万円程度ですから、この瓶を落として割ろうものなら大変ですね。
とまあこの話はムダ知識みたいなもので、通常、薬局にゾルゲンスマが置いてあるなんてことはありません。
ここで私が言いたいのは、
「医薬品は、その価格がモノによって大きく異なる商品だ」
ということです。
八百屋さんみたいに「安いものは百円、高くても数千円」という世界ではない。
高いものはとことん高い。それが医薬品の、商品としての特徴です。
だからこそ、高額な医薬品が廃棄にならないようにすることが重要なのです。
「高額な薬」がもたらすリスク
1億円は無くとも、一箱25万円の医薬品なら、私の勤務している薬局にもあります。
薬局経営で恐ろしいのは「高い薬を出したからといって、薬局がめちゃくちゃ儲かるわけではない」ということで、25万円で購入したこの薬が全て処方されたとしても、薬局の利益としてはせいぜい3万円ぐらいです。
じゃあ一箱買ったこの薬が、途中で薬が変更になったり患者さんが来なくなったりして「半分」余ったらどうなるのでしょうか。
廃棄金額は13万円です。
全部売れても儲けは3万円なのに、半分売れ残っただけで損失は13万円。
そして、この「売れ残り」は、何も策を講じなければ頻繁に起こります。
先日私の薬局でも、「たった一人の患者さんが来なくなった」だけで10万円の損失が出ました。
薬が変更になってしまった。
患者さんが来なくなってしまった。
患者さんがいつの間にか亡くなっていた。
こうした出来事に常に目を光らせておかねばなりません。
だからこそ、薬局には「在庫管理」が必須なのです。
在庫管理の方法
では具体的にどのようなことをするのでしょうか。
私は大手の調剤薬局チェーンで、長年、在庫管理を司ってきました。
意識することとしては、
・薬は必要以上に持たないこと
・「出なくなった薬」をいち早く見つけること
・「出なくなった薬」は他の店舗に移動させること
・絶対に「期限切れ」を起こさないこと
ですね。
ただこれ、言うは易く行なうは難しで、1,500品目ある薬がどれも腐らないようにする、というのは至難の業です。
私はエリアの在庫管理担当をしていたのですが、会社では高額の医薬品を期限切れにしてしまうと怒られてしまいます。
単純に損失ですからね。
だから薬剤師業務をこなしながらも、毎日Excelとにらめっこし、関数やマクロを組んでいました。
皆さんに伝えたいこと
さて、ここまで在庫管理について語ってきたわけですが、皆さんに伝えたいことだけ、書き残して終わりたいと思います。
それは、
「同じ薬局を使い続けてあげてほしい」
ということです。
例えば患者さんが処方せんを持ってきてくれて、薬が取り寄せになったケースについて。
薬剤師側の本音はこうです。
「もし今回限りなら、早めに在庫を処理しておきたい」
↓
「でも在庫を処理してしまうと、もしまた来ていただいた際には、取り寄せで再度お待たせすることになる」
↓
「とはいえ、次回も来ていただけますか?とは聞きづらい」
だから患者さんが「次回も処方せん持ってきます」や「今回だけこちらで貰います」といった意思表示をしてくれれば、薬局としてはとても助かります。
「出なくなった医薬品を他の店に移動させる」というのは、「このままだと捨てられていたハズの薬で、誰かを救うことができた」と同義なので、環境的にも大切なことです。
どうぞご協力をお願いいたします。
まとめ
というわけで今回は「在庫管理」について解説しました。
「調剤」のところで述べましたが、昨今、薬剤師は「モノ(対物)からヒト(対人)へ」という働き方改革を行っています。
無論、この在庫管理なんてのは名の通り「対物業務の典型」なワケですが、医薬品や患者さんに対する理解や長年の経験みたいなものが重要なので、事務員さんへのタスクシフトは行わず、薬剤師が行っています。
Excel大好き人間の私としては、楽しい仕事です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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それでは、また。