🌏 この世はシミュレーションである
病室の天井が見える。
ベットのぬくもりが感じられなくなってきた。
呼吸が浅くなっている。
もうそろそろ私は死ぬのだ。
「ピー………ピー…………ピー…」
ベットの横の心拍計も徐々に音の間隔を広げている。
84年、なんとか生きてきた。
妻は3年前に先立ち、子もいないから
思い残すことは何もない。
あぁ…意識が……薄れて…い……
医者「6月3日22時04分、ご臨終です」
『ゲーム終了。お疲レサマデシタ。』
VRゴーグルを外す。
「いやー、今回の人生も楽しかったなー!!」
これで人生何周目だっけ。6周目?
あと4周かぁ、長いなぁ。
この基盤現実では最先端VRによる仮想現実体験がブームになっている。ちょっとしたゲームだ。
仮想現実に意識を投影するとゲームが始まる。
キャラクターはたくさんあって、犬や猫、虫やトカゲなど、数えられないほどの種類がある。
そのなかでも人間は一番人気のキャラクターだ。恋や仕事、食事など、五感で仮想現実を存分に体験することができる。なにより「情報をどれだけ残せるか」が目的であるこのVRでは人間は効率良くポイントを稼げる。
ゲームには本来の自分の記憶はアップロードできないので、赤ちゃんで生まれたときには自分がVRのゲームに参加しているということも忘れてしまう。ある程度の初期設定を組み込んで人生の方針は決めておけるけど、あとは仮想現実での外界からの刺激にどう反応するかに委ねるしかない。
記憶を持っていけないのは、自己を認識したままではズルになってしまうからだ。
過去にはズルをして記憶をアップロードして参加したやつもいた。
仮想現実の中ではキリストとかブッタとかニコラ・テスラという名前で広く知れ渡っている。そりゃズルをしたんだから情報を強く残せて当然だ。
やつらはその回だけで5000ポイントは稼いだ。
それにしても今回の人生はまた違った楽しさがあったなぁ。
前は戦国時代の侍で、その前は中世ヨーロッパの女性で、その前は平安時代の犬を経験している。
仮想現実の中もテクノロジーが進化していて、今回の時代は色々な娯楽があった。
84歳まで続けられたのは幸せなことだ。
妻に先立たれた時にはどうしようかと思ったが、それほど長く苦しまずにゲームを終えられたのも救いだ。
あぁまた妻に会いたいな。
妻は誰がプレイしていたんだろうか。
妻をプレイしていたやつもこの基盤世界にいる。
いつか会えたら、仮想現実の中での思い出を語り合いたいなぁ。
死んだ最愛の人にまた会えるようなものなのだから、嬉しくないわけがない。
今までの6回の人生はすべて覚えていて、リプレイ機能でまた観ることもできる。
この前は3回目の人生で伴侶になったやつと一緒にリプレイを観て、色々話せて楽しかったなぁ。プロポーズのシーンを何回もリプレイして笑ったっけ。
いやー、それにしてもこの仮想現実もアップデートが進んでいて、前より長い時間楽しめるようになったなぁ。
人間なんて500年前の設定では50年も生きれなかったもんなぁ。
人間が追加される前なんて恐竜とか原始サルとか、ただ食べて寝るだけの微妙な設定だったし、なにより食物連鎖で食われる時がめちゃくちゃ痛いんだよなぁ。
仮想現実の中ではビックバンによって世界が誕生した設定になっていたけど、実際はただのVRなんだから、なんだか騙しているみたいな気分になっていやだな、基盤世界に戻ってきた今となっては。
さてさて、あと4周でクリアかぁ。
人生10周した自動的にクリアになって、
その10回でどれだけ仮想現実に情報を残せたかでポイントが振られるんだったよなぁ。
いまは…455ポイントか。
てことは今回82ポイントかぁー低いな!
まぁ妻と二人でのんびり過ごしていたから、そんなに情報を残してないし、仕方ないか。
ワールドランキング上位は10000点超えてるよなぁ。
そりゃ総理大臣とかノーベル賞とか芥川賞とか取ったら1000ポイントくらい付くもんなぁ。
さてとー、とりあえずあと4回の人生で545ポイントはとって合計1000ポイントは行きたいな。
次の人生は、どれにしようかな、、と、、
おっ!ロサンゼルスの弁護士の子供の枠が空いてるじゃん!
結構環境も良さそうだし、これならある程度は情報を残せそうかな。
子供を残しても100年も経てば子孫すら自分のことを知らないから、DNAを残したってあまりポイントにならないんだよなぁ。
2回目の人生で子供を作ったけど、子育てに時間とお金を奪われて自分の人生どころじゃなかったもんなぁ。結局今までで一番ポイントが低かった回がその回だ。
とりあえず今回は「本を出版する」ということを潜在的な目標に初期設定してみるか。
前回は「写真を撮る」だったか。
さてさて、じゃあもういっちょやりますかー!
ゲームスタート!
「オギャー!オギャー!」
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