守り人
国境の大きな門に、一人の門番がいました。
他国からやってくる旅人や商人の馬車や荷物を点検し、怪しいものが国に入らぬためのとても大切な仕事です。
しかし、赴任した頃は往来が激しかったのに、最近では全くと言って良いほど、誰も何も通りません。
「これも戦の影響だろうか。都には物資が届いているのだろうか」
生真面目な門番は、都を憂いながらただ職務に忠実に、今日も門の前に立っていました。
と、丘の向こうから商隊がやって来ます。
「待て!ここを通るには印が必要だ」
門番の言葉に、先頭の御者が不審げに答えました。
「は?印とは?我々はここを越えて隣国へ行かねばならんのだ」
門番と御者が押し問答をしていると、身なりのよい商人が中央の馬車から降りて来ました。
「失礼をしました。こちらが印でございます」
商人の手には古びて霞んだメダルが乗っていました。
「おぉ、これは!」
「はい、わたくしの曽祖父から受け継いでおります、こちらの門の出入り自由の証にございます」
「これは失礼をした、通られよ」
商隊はやや足早に通り過ぎて行きました。
「ご主人、一体何なのです?ここから先はもう百年以上前に滅びた都の跡ですよ」
「そうだな。その前はきっと栄えて華やかだったのだろう。このメダルが必要なほど」
振り返ると門番が立っていた場所には、陽に照らされた影が、ゆらゆらと揺れていました。
2024/08/23脱稿