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-小説- ミモザからはじまる 【1.ミモザ】
歩く時はイヤホンをしない。自分の中を流れる音に、風が鳴り、草木がそよぎ、鳥が歌い、そうした音と混ざりあってできあがる音楽をふさいでしまうのがもったいないから。
と、かっこつけて言ってみても、ある曲の受け売りなのだ。
「イヤホン外せば聞こえる
世界と混ざる 混ぜる音楽
そよぐ木々 すべる水面
すれ違う自転車の車輪
君の声が聞こえたらなんて」
BRIGHT DAYというバンドの『イヤホン』
-小説- ミモザからはじまる 【2.菜の花】
坂道を上りながら、若葉は昨日の自分の言葉を思い出し、照れくささが湧き上がってきた。「うたたね」の前で一瞬ためらっていたが、ほのかなミモザの香りに深呼吸したような気持ちになり、思い切って戸を開いた。
「こんにちは」
「いらっしゃい。お待ちかねだよ」
「おう」
「すみません。お待たせしました」
「ほな、行こうか。何も頼まんとごめん」
「いえいえ。いってらっしゃい」
シンは手を振って送り出した。
店を
-小説- ミモザからはじまる 【3.桜】
懐かしい気持ちがした。安堵したとも言える。
「うたたね」の前に立つ亮は、坂道を登ってくる若葉の姿を見つけた。駆け出しそうになる足を抑え、うつむいたまま近づく足音を待つ。
見上げる若葉の顔が視界に入る。
「こんにちは」
何を言おうかためらっていたが、若葉の明るい声を聞いて、亮はまっすぐに言った。
「この前は、すまんかった」
「いえ」
「来てくれて、よかった」
「来ますよ、もちろん」
若葉が笑った。
-小説- ミモザからはじまる 【4.つゆくさ】
低い音でスマホが震える。明るい窓が亮からの着信を知らせる。
「もしもし」
「今いいか?」
「大丈夫ですよ。バイト終わって、ちょうどカラオケに来たとこです。ちょっと練習しに」
若葉は、重い扉を開いて、小さな部屋に入る。
「そうか」
「何かありました」
「ああ。メール送ったんやけど。そこに付いとるURL開いて」
若葉は電話をスピーカーに切り替えて、メールを開く。
「はい。これですね。何ですか」
メール
-小説- ミモザからはじまる 【5.ギンヨウアカシア】 (最終話)
フェスを翌日に控え、亮の運転で会場へと向かう。助手席の若葉が、後部座席をのぞくと、シンの頬にまつ毛の影が揺れていた。
「シンさん、寝ちゃいましたね」
「喋りすぎのはしゃぎすぎや」
シンはあれこれ調べてきたという、フェスに出演する他のアーティストのこと、会場のこと、フードのことなど、運転しながら喋り倒していた。亮と運転を変わると、車内はすっかりと静かになった。
「はしゃぎたくなります。私もはしゃいで