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カエルトコロ。

無条件に好きだと思える土地がある。

故郷の山々。
野菜の無人販売所。
田んぼから聞こえる蛙の声。

慣れ親しんだ土地を離れたくなかった。

何度も約束を先延ばしにした。
彼でなければきっと愛想を尽かされていた。

発つ前に思う。
沖縄から北海道までの道のり約三千キロ。
その何分の一かの距離である。

地図を広げればわずか人差し指一本分の長さ。
たったそれだけだと自分を諭す。

✳︎

滑り込む新幹線
弥立つ気持ちでホームに立つ
でもまだ故郷へ未練を残す

停車する新幹線
愛した土地を踏みしめる
見慣れぬ住宅街
離れた時間の長さを知らせる

通り過ぎる新幹線
故郷への想いはときに薄れゆく
昔の自身を置き去りにする

去りゆく新幹線
与えられた地で寧静を育む
いつしか「帰る」とそこを呼ぶ

あの日の自身が遠くに映る

ときに憂いを乗せた新幹線
私が私を追い越していく


ここまで読んでいただいたこと、とても嬉しく思います。