幕引き。
勝手な思いを書く。
とうとう終わってしまった「たりないふたり」のこと。
『明日のたりないふたり』をこれからの見る予定の人は見ない方がいいかもです。(アーカイブは6月8日まで)
5月31日、たりないふたりの解散ライブが行われた。
たりふた愛は以前書いた通り。
当日は見ることができなかったため、夜更けにひとり、アーカイブで見た。
12年間の総括。
センターマイクに立つふたりは、なんだか傷だらけに見えた。
どうすれば足りてる側へ行けるのか。
心に傷を負いながら、血を流しながら、模索してきたふたりの行き着く先はどこなのか。
たりない大人たちが集まったあの空間で、混じり気のない涙を流す彼らに、一体何が足りてないというのだろう。
逆に足りてるってなんだよ、と思った。
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たりないふたりの漫才にはきっちりとした台本がないため、若林さんの頭の中にある設計図をもとにラリーが続いていく。
その瞬間瞬間でしか生まれない、ふたりのワードセンスの応酬が魅力のひとつだと思う。
ネタ中、不意に核を付かれて困惑したり、唐突に感謝を述べられて涙ぐんだり、漫才という枠では収まりきらないふたりのやりとりに、毎度心を揺さぶられる。
山ちゃんとの漫才が好きで、楽しくて、お客さん居なくていいから夜の公園でふたりで漫才しようと誘う若林さんの気持ちが溢れた舞台だったと思う。
人を笑わせることが芸人のはずなのに、そんなこと言えちゃう人に出会えるのって本当に奇跡だよね。
このご時世で無観客ライブとなってしまったけれど、公園でやるふたりだけのライブを見させてもらったようで、逆に良かったかもしれない。
ふたりなら、周りに笑い声なんてなくてもいいじゃん、と思える。
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足るを知らない人生だ。
私も現在進行形で。
「人見知り」というワードは、自分の若い頃これ見よがしに使いすぎたせいで、最近では言うのをためらってしまう。
人見知りを打ち明けることで相手に気を遣わせるんじゃないかとか、「私人見知りで…」と自分以外の誰かがそれを言ったとき、人見知りキャラがこの場にふたりもいるのってどうなのとか、よく分からないセンサーが発動して言えなくなる。
だからといって社交的に振る舞えるタイプでもないので、周りにはうっすらバレていると思う。
さらりと言ってしまえる器用さを持ち合わせていないせいか、そんな思いはどんどん沈んでいくばかりで、自分で取り出すのが怖くなるほどだった。
人見知りを完全にこじらせている。
素直な人見知りなら、まだよかった。
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大人になって、いくつか仕事を経験して、人付き合いを学んだ。
今では人見知りと安易に言えない立場にもなりつつある。
だからある程度は封印してきた。
仕事では出来るだけ自分から話題を振り、周りとのこまめなコミュニケーションを心掛けている。
昔よりもスムーズに会話もリードできるようになった。
「できてる、できてる」と心の中で思う。
これでいい、これがこの世の処世術。
社会に擬態しながら、自分の存在を肯定し続ける日々だ。
でも、ふと感じる。
底知れぬ自分の変わらなさ。
成長できた喜びに隠れる、こじれた未成熟さ。
その振る舞いは果たして、精神を伴った成長なのかと、日々自分を疑う。問う。
あっという間に、人との深い信頼関係を結び、育んでいる人を目にする。
軽やかに、自然に、嫌味なく。
私が何年もかけて進めてきた歩を軽やかに飛び越えていく。
手を伸ばしても、到底追いつけない場所にいる。
同じ場所では、戦えないと思う。
向こうは戦っている意識さえない。
同じ土俵にも立ってない。
感じる必要のない絶望にだけはやけに敏感な自分がいる。
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こんな私に希望をもたらす存在でもあった。
それは人生の素晴らしさを説く誰かでなく
知恵を授けてくれる誰かでなく
遠い場所で、足りなさの剣を振り回しているいい歳した大人だった。
人間力でなく、足りなさを選んだ大人だった。
人間力を手にしたつもりが、まやかしだったと告白できる大人だった。
心底、カッコイイと思った。
自分の足りなさを何周もして、もがいて、たどり着いた先が結局同じ場所だったなんて言える?いい大人が。
そんな種類の勇気、見たことない。
「人は変われます」って言われるより、何倍も希望を持てた。
こういう人たちが真に、明日の、無名の誰かを変わらせているんだと思った。
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彼らは、閉じているように見えるだろうか。
いつも自分を世界の中心に置いて
いつも自分語りをして
いつも自分と周りとを比較して
殻に閉じこもって、他者との関係を拒んでいるように見えるだろうか。
そんなことない。
血を見せ合ってはじめてスタート地点に立てることを知っている人たちだ。
自分にはこんな血が流れていると告白できる人たちだ。
傷を舐め合うんじゃない。
痛みを分かって、向き合って、明日に向けたファイティングポーズを先陣切って見せてくれてる。
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そんなふたりがはじめた舞台は、ここで一旦幕引きとなる。
自分達だけのこんな気持ち伝わるかな、とちょっとの勇気ではじめてくれた物語が、最終的にここまでの大きな渦になるとは。
noteで感想書いてる人も多いね。
反響の多さがうかがえる。
泣いたって人、私も同じです。
そんな渦に巻き込まれながら、片隅にいる無名の私も思う。
たりなくてよかったー。