凪良ゆう「美しい彼」

 本書のストーリーは、以下の通りである。

 吃音持ちで底辺ぼっちの平良と、美しく、生まれながらのキングである清居。平良は清居を神のように崇め、清居は平良からの狂気的な愛を「きもい」「うざい」と言いつつも心地よく感じる。次第に清居は平良に心惹かれるようになるが、平良は清居を崇める対象としてしか見ようとしない。恋人になりたい清居と、崇拝したい平良。結局、清居が自分から泣いて愛を乞う羽目になる。自分は道端の石ころに過ぎないと卑下する平良こそが、実際は清居の気持ちを推し量ろうともしない王様だった。

 ファン気質で狂気的な愛を注ぐ平良と、幼少期の孤独から愛されたいという欲求が強い清居。奇跡的に需要と供給がマッチしているのに、すれ違いばかりなところが不憫で愛おしい。

 BLというジャンルでは、キャラクターの属性が重要となる。「ドS/ドM」「ツンデレ」「犬系/猫系」「年下/年上」「陰キャ/陽キャ」など、属性の組み合わせによって萌えを見出すのである。属性は単なる属性でしかなく、キャラクターの生きてきた過去や抱える背景は丁寧に描かれない場合も多い。しかし、「美しい彼」は違う。人間の持つ複数の面(それは一見すると相反するように見えることもある)が丁寧に描かれ、もどかしくもリアルな感情の動きが見える。平良も清居も属性で表せるとは思うが、それは彼らの一面でしかない。本書は理屈抜きで人が惹かれあう様子が描かれた、究極のヒューマン・ラブストーリーだと感じた。


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