見出し画像

時代小説のすゝめ:藤沢周平著『雪明かり』


不思議とちょっとエッ○な気持ちになる短編小説


『雪明かり』は、藤沢周平の卓越した筆致によって描かれる短編集であり、庶民や武士の生活が繊細かつ奥深く描かれる。

物語の舞台となるのは、江戸時代の日本。

全編通して、男女の関係がテーマとして主軸に据えられており、そこの描写が妙に生々しい。

激しい描写があるわけではないが、なんだか物凄いドキドキさせられる。

その他、雪明かりに照らされた町並みや、静かに息づく人々の暮らしが鮮明に描かれ、そこに生きる人々の哀歓が物語の中で見事に織りなされています。

時代の流れの中で生きる人々のささやかな幸せや苦悩、そして人生の機微が詳細に描き出されており、読む者の心に深い余韻を残すことだろう。



著者紹介


藤沢周平(1927-1997)は、日本を代表する時代小説作家の一人である。

山形県の寒村に生まれ、地方新聞の記者を経て作家デビューを果たす。

彼の作品は、豪華な剣戟や大規模な権力闘争ではなく、むしろ市井の人々や下級武士の日常生活に焦点が当てられている。

それらは華やかなヒーローの物語ではなく、名もなき人々の生き様に寄り添い、その心情を丹念に描き出す。


彼は、時代背景や歴史的事実に忠実でありながらも、そこに生きる人々の普遍的な感情を描くことで、読者に共感と感動を与え続けました。

その作風は、多くの読者に愛されるとともに、映画やドラマにもたびたび映像化され、その世界観の豊かさと深さが多くの人々に伝わっています。

以下に彼のプロフィールをまとめます。

生い立ちと経歴

1927年12月26日、山形県東田川郡黄金村(現在の鶴岡市)に生まれました。

本名は小菅留治(こすげ とめじ)。

教育と初期キャリア

  • 鶴岡中学校夜間部に通いながら、黄金村役場などで働く。

  • 1949年に山形師範学校(現在の山形大学)を卒業し、地元の中学校で教師となる。

  • 1951年に肺結核と診断され、約6年間の闘病生活を送る。


作家としての道

  • 1957年に退院後、東京の業界新聞社に勤務しながら小説を執筆。

  • 1971年、『溟い海』でオール讀物新人賞を受賞。

  • 1973年、『暗殺の年輪』で第69回直木賞を受賞し、専業作家となる。


晩年と遺産


藤沢周平は1997年1月26日、69歳で肝不全のため逝去しました。

彼の作品は今でも多くの読者に愛され、2010年には出身地の鶴岡市に「鶴岡市立藤沢周平記念館」が開館されるほど。

藤沢周平の作品は、人間の矜持や愛情を情感豊かに描き出し、時代小説というジャンルに新たな魅力を加えました。

彼の登場は歴史・時代小説のジャンルに大きな刺激を与え、現在も多くの作家や読者に影響を与え続けています。


レビュー・感想


『雪明かり』は、藤沢周平が描く江戸時代の情景や人々の心情が繊細に綴られた短編小説集となっており、侍の生き様や市井の人々の物語が収められている。

それぞれが独立した物語でありながら、共通するテーマとして「人間の本質」や「生きることの意味」が浮かび上がってくる。

藤沢周平の作品に共通するのは、派手さはなくとも確かな生き様を持つ人物たちの姿だ。

『雪明かり』に収められた物語もまた、武士の誇りや義理、人間の弱さと強さが巧みに描かれ、読む者に深い感慨を与えてくれる。

各章には、それぞれ異なるテーマやキャラクターが登場し、短編物語ながら、とても読み応えのある内容となっている。

例えば、ある物語では、厳しい掟に従う武士の葛藤とその末路が描かれ、別の物語では、日常の中に潜む人間の温かさが表現されています。

そしてなんといっても私が感じたのは、男女関係の生々しいリアルさだ。

本作には、恋人、夫婦、血のつながりのない兄弟など、様々な関係性を持った男女が各章に必ず出てくる。

そしてその全てが例外なく素敵なのである。

江戸時代の女性の奥ゆかしさや慎ましさ、男の武士としてのプライドや誇り。

現代を生きる我々にとっては「そんなのどうだって良いじゃん」ってことでも、当時の人間には命よりも大事。

そのような描写が非常に巧みで、思わず感情移入してしまう。

もちろん恋愛描写もある。

そしてまた妙にエロい。

官能小説のような直接的な、描写や激しい描写は一切ないが、それでも感情が動く。

この気持ちはぜひ実際に読んで体験してみてほしい。




まとめ


『雪明かり』は、藤沢周平の繊細な物語作りと深い人間洞察が堪能できる短編集です。

江戸の町並みや侍たちの生き様を通して、人間の本質や生きることの意味を問いかけてくれるこの作品は、歴史小説ファンのみならず、多くの読者におすすめです。

静かな感動と共に、江戸時代の風景に心を馳せることができるこの一冊を、ぜひ手に取ってみてください。


文庫版



Kindle版


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?