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シキ 第二章「夏雲奇峰」第十話

第十話

 本格的に受験生となったシキは放課後にウタと勉強するほかにも週末には古都も交えて三人で勉強に励んでいた。
 場所はシキとウタの通う学校と古都の通う学校の間ぐらいにあるショッピングモール、そのフードコートが多い。日によってはファミリーレストランや古都おすすめのイートインスペースのあるパン屋でも少し勉強をすることがあった。
 だが、夏休みも終わってすぐの8月末の今日、シキは古都とフードコートにて二人で勉強をしていた。
 「空知さん、今日は部活だっけ?」
 「うん、ウタはこれで引退だからねー」
 「楽しみだなあ、文化祭」
 この日、ウタは部活で勉強会には参加していなかった。
 9月の頭に行われる文化祭にてウタは自身の作品を展示する。それが彼女の引退となるのだ。
 「二人とも凄いなあ、僕もなんか大学でやってみようかな」
 「いやいや、古都くんには写真があるじゃない。あ、でも写真サークルとかあるのかな?そういうのは?」
 「うーん、でも写真は一人でのんびり撮りたいからなあ」
 「まあそうよねえ・・・」
 「ま、とりあえず受からないとね」
 「古都くん頭いいじゃん、余裕だよ」
 「どの受験生でも油断は出来ないよ?」
 「はーいせんせー」
 シキは勉強をそこそこにはやっていた。今までも部活にかまけていたとはいえテスト順位は全体の半分以上には入っている。そして、状況は古都も同じようであった。成績はそこそこに、と。
 ただ、シキの高校は偏差値58ほどの高校。一方の古都は偏差値63程の高校に通っている。校内での順位は似たようなものでも実情は異なり古都は割と頭がいい。
 なのでシキはほとんど古都に勉強を教えてもらっているような状況だった。
 「あ、ちょっといい?」
 「うん、大丈夫」
 「ここの並び替えの問題なんだけど・・・」
 古都は特に英語が得意であった。発音もかなりいい。
 このように教えてもらうことがほとんどだ。
 だが、「ごめん、美山さん」
 「ん?」
 「この漢文の現代語訳なんだけど・・・」
 「あー、これは確か」
 古都は古文漢文がすこぶる苦手なようだった。
 ただ、三人の中で一番勉強が出来るのは、ウタであった。

 「ごめーん、部活切り上げてきたー」
 夕方ごろになってウタがフードコートにやってくる。
 「お!おつかれー」
 「お疲れ様―」
 「絵の方はどう?」
 「良い感じ!明日また見てみて良い感じだったら最終仕上げになるかな!」
 「おー!楽しみ!」
 そしてシキと古都は二人では解決できなかった数列の問題と古文の問題をウタに聞く。
 「あー、それちょうどやったところ!ええとね・・・」
 そしてウタは丁寧に教えてくれる。
 教え方も上手い。
 「いやー、ほんとウタは凄いな・・・」「空知さん、逆になにかわからないとこないの?」
 と二人から感謝と絶賛の声が上がる。
 「まあ、その時は二人を頼るよ!」

 こうして文化祭の当日を迎えた。
 シキのクラスでは受験勉強もありみんなのやる気もそこそこだったので、フォトスポットという無難な手抜きに落ち着いた。
 仕事は呼び込みと撮影のみなので暇な時間の方が多い。
 文化祭の開会が宣言され、まずシキは校門で古都を待った。
 二人でウタの集大成を見るのだ。

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