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書くってどういうこと?

立命館大で行われた、岸政彦さんと千葉雅也さんのトークに参加したのですが、とても楽しかったのでちょっと記録に残しておきます。参加していない人にもあの雰囲気が伝わればと思う。

何故小説を書くことになったのか:千葉さんは、「ジャンルを問わずに書いてきたし、稲垣足穂こそが知だと思っていた」「物語的なものもやりたくなってきた」「具体的なものと向き合うため」に小説を書き始めたとのこと。岸さんは、最初の社会学の論文が、編集者から文章に過剰なものがあるので、小説を書いてみないかと言われていたそう。でもそれまでスティーブン・キングぐらいしか読んだことがなかったので、ホラーファンタジーSFを書いたら(これはこれで読んでみたいが)、編集者から岸さん自身の具体的な話を書いてくださいと言われたとのこと。

2人の出会い:岸さんが十三で演奏しているところに千葉さんがやってきて、演奏に乱入?してピアノを弾き始めた。その後、一緒に飲みに行ったそう。そこで岸さんは千葉さんに「社会学やめた方がいいですよ」と言われたと記憶してたが、千葉さんは「そうは言ってない、デヴィッドソンのような分析的なアプローチは岸さんに向いてないからやめた方がいいと言ったのを誤解されてますよ」とのこと。記憶って本人がそう思い込んだら、そう記憶されるのかと改めて思ったりした。

何故文章が書けるのか?:岸さんは、文章が書けちゃうのだが、どこから文章が出てくるのか?と千葉さんに振ると、「間接的なフレーム(ルール)を考えています。ピアノだと、白鍵だけで弾くというある種の制約があると弾けたりするように、事実に基づくとか、時数制限を設けるとかの制約がないと書けない」と答え、それに岸さんは「流れてくるものを書き写している感じ、恣意的なことは難しい、何故なら、言語は先にある、脳には文法が最初から入っているから、そして中間的な秩序を持つのが大事」と言われます。

論文の書き方:岸さんは論文指導の際には、問題設定が大事、これができれば80%できたと同じと言い、千葉さんは自身の処女作『動き過ぎてはいけない』を書く際、1アイデア<切断>で行くしかないとなったときにその他のものがその幹に集約されていった経験から、論文で論点が3つある場合には1つに絞るように指導しているそう。

小説への態度:岸さんは小説は「個人的でプレ社会学的なもので、社会学を始める以前のことしか書きたくない、もっと個人的なもの」「自分の生活誌を自分で聞いていて、架空の人が書き留めている感じ」であると言い、「マジョリティに拘る」とも言われます。千葉さんは、「どこまでを断言して、どこで断言を回避するかを神経質にやっていた」が、書けなくなり、全体に緩くしていくようになったと言う。

お互いの作品について:岸さんが千葉さんの『デッドライン』で一番気になったのが”ブロッコリーを捨てる”という箇所で、あそこで、千葉雅也が現れていると言います。千葉さんは岸さんの『給水塔』に対し、自分が『デッドライン』で東京を車スケールで理解できているのに対し、岸さんが自身の身体スケールで、大阪を理解しているところに共感したそう。

書くときのスタイル・ツール:岸さんは「文章を上手に書こうと思ったことない、勢いで書くし、推敲もしない」そう。そして「言葉それ自体でなく、エピソードを書きたい」と言います。千葉さんはそんな岸さんを天才と言い(確かにそう思う)、自分は「言葉それ自体なんですよ、視覚的な見え方とか」と言います。また岸さんは川上未映子さんが小説とエッセイでWORDのフォントを変えている、しかもどちらも聞いたことのないフォントということを例に、「自分はメモ帳のようなもので書いていて」拘っていないと言ったのに対し、千葉さんはまず1)内容だけ、ダークモードで書いて、情報だと思うことにして、2)WORDに白地に変えていって版面にするそうだ。それは「造形作品を作っている」感覚だそう。

質疑応答より:ここで、岸さんがトイレ休憩したので、まず千葉さんへの質問となり、千葉さんの回答で印象に残ったことを記録すると。「いろんな有限性を設定することがクリエイティブには大事」「ハーバーマスは公的、デリダやニーチェは私的な分析を行ったと言われるが、個々人が持っている欲望に分析的に取り組む時、他者とどう付き合っていくかと関わっていて、公的な分析と私的な分析は不可分である」「小説は私的な自分を分析することにより、公的な部分に如何に繋いでいくかという試み」「言葉というものは人間を乗っ取っていて、本当はそんなことを言いたくないのに言葉が増幅されている。そんな非人間的なオートマティックなものに関心がある」など。ここで岸さんが戻られて、インスピレーションをどう得ているかということに対し、岸さんは「世界観、いろんな人がいろんなことをやっていることが好き、エピソードもドラマチックなものが好きではない」と言い、千葉さんは「断片的な知覚からインスピレーションを得て、次のシーンを考える」と言います。

感想など:岸さんは、コーディネーターの西成彦さんの机が離れているのを見て「もっとこっちに来てくださいよ」と机をくっつけたり、トイレから戻ってきて「俺のいない間に高尚な話して。。」とか、終始場が和やかになるように気を配られていて、千葉さんも楽しそうに話されていたのが印象的でした。何かとても心地よい時間でした。両先生ありがとうございました。




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