“&”から見る書体の個性
アートディレクターの市川です。
みなさんは、“&”この記号の読み方をしっていますでしょうか?
この質問を聞かれた時に私は最初知らずにandじゃないの?なんて言ってしまっていました笑。andという意味で普段あたりまえのように目にする記号なのに、その読み方を知らないなんて、あらためて記号は文字というより「図形」として認識していたのか思い知らされました。
この記号にはampersand(アンパーサンド)という読み方があります。そして、
記号名の「アンパーサンド」は、ラテン語まじりの英語「& はそれ自身 "and" を表す」(& per se and) のくずれた形である(wikipediaより引用)
アンパーサンドはもともと装飾が目的なため、書体デザイナーの遊び心が出やすい書体でもあるんです。もしあなたが好きな書体がいくつかあるのなら、ぜひ「&」を表示してみてください。「イメージ通り!」ということもあるとは思いますが、「え!?以外とこんなんなのね」みたいのもあってとても面白いです。
いろいろな“&”
ローマン体、スクリプト体のアンパーサンドは書体によって様々な表情があって面白いです。もちろんサンセリフ 体のアンパーサンドも、ローマン体ほど大きい変化ではないけれど、ディテールに各書体の要素が特徴的に落とし込まれていて興味深いです。
いろいろなローマン体の“&”
ローマン体のアンパーサンドはイタリックになると少し形が変わり、アクセントとしてアンパーサンドだけイタリックを使うと、花のある雰囲気の演出に使えます。
↓ローマン体“&”
↓ローマン体イタリックの“&”
いろいろなサンセリフ の“&”
本文組みでは使っちゃいけない?実は厳しい「&」の使用ルール
“&”だけで一冊の本をだしちゃうくらい研究熱心なドイツのタイポグラファーのヤン・チヒョルト氏は、他の著書「書物と活字」では人名の連続にのみ使えるのだというように厳格に定義づけているようです。また“&”はあくまでラテン語の et の合字からできた and の省略記号のため、正式なものには使わないほうが安全との見解もあります。
A Brief History Of The Ampersand + Et & Ampersands
また、イギリスやアメリカでは社名や商品名などには使われているようですが、本文中には使わないなど、使用する場面を限定しているようです。そして日本でよく見かけるTEL & FAXやTEL/FAX といった省略記号を使った表記は、「欧文の名刺」では使わない方が安全です。個人的には、省略記号は正式なものには使用しないというスタンスでいれば、大きな間違いにはならないと思っています。
(日本語でも公式な文章で略字を使用することがないのと同じように)
もちろん社名ロゴや人名などに使うのはちょっとしたアクセントになって良いと思います。ふさわしい場所で使えるように書体の背景を知っておきたいですね。
“&”ならでは曲線美
形も面白く、曲線のストロークが多い“&”は、書体というよりも一つの装飾的な造形として勉強になります。特にadobe fontsのPoeticaは、書式→字形から72種もの”&”をパレットで確認することができ、実際に使うかどうかよりも書体デザイナーのこだわりに触れられる良い事例です。
このPoeticaの書体デザイナーのロバート・スリンバッハは、他にも「Trajan」「Adobe Gramond」アドビのコーポレート・タイプフェイスである「Adobe Clean」など多くの書体をデザインしており、“&”をきっかけにいろいろな書体の個性を見比べるのも面白いです。
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