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少女トラベルミステリ

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「星子ひとり旅シリーズ&幽霊事件シリーズの研究本を出そう」から始まった『少女トラベルミステリ』──『少女』『トラベル』『ミステリ』の視点で少女向けミステリ、少女探偵、女性向けトラ…
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「トラベルミステリー」って何だろう問題4、あるいは少女トラベルミステリの定義のやり直し

かなり時間は開いてしまいましたが前回はこちら。 前回である程度オチがついた気分でいたのですが、結果的に館山が『少女トラベルミステリ』の中で「どんなものをトラベルミステリと認識するか」という部分については曖昧になっていました。そこをもう少し詰めようと思います。 まずトラベルミステリにはふたつの要素があります。言うまでもなく『トラベル』と『ミステリ』です。「いやー、要するにトラベルでミステリなのがトラベルミステリですよー」とかいうトートロジーで落とすのではなく、自分にとって「

韓国語版『クリスマス幽霊事件』購入レポート

以前に『清里幽霊事件』『スキー場幽霊事件』コミックスが中国語翻訳されて刊行されたものを入手した記事を書きました。 この時に購入代行というものを初めて利用し、大変スムースに本を購入して記事を用意しました。我ながらびっくりです。一応中国語はDuolingo英語版の方でその時に登録されている分のカリキュラムは終えていたので初歩的なところはかじっていて、台湾で使われている繁体字には馴染みが少なかったものの、戦前の日本でも使われている字が多く、ある程度推測もできたのが大きかったです。

【祇園舞妓小菊シリーズ】リスト

大人の女性探偵が多い山村美紗作品の中で唯一の少女探偵のシリーズです。内容の確認は初出の本ではなく、手に入りやすかった文庫版で行っていますが、発売日は初出の本のデータを掲載しています。文庫版に収録されている解説などの情報も付記しています。 祇園の売れっ子舞妓、小菊が探偵役となっている祇園舞妓小菊シリーズは全部で六冊刊行されています。ただ、それ以外にもキャサリンシリーズ二作目、1978年12月25日刊行の『百人一首殺人事件』に小菊という舞妓が登場しています。出身地その他で設定的

【比較】an・an創刊号、non-no創刊号、そしてディスカバー・ジャパン

アンノン族という言葉をご存知でしょうか? 語源は1970年創刊のan・anと1971年創刊のnon-noのアン、ノンを合わせたものです。それまでは団体旅行、少人数だと新婚旅行がほとんどだった旅行業界で、それらの雑誌の読者を中心とした、女子の一人旅、少人数の旅が大流行したことで付けられた名前です。 『少女トラベルミステリ』でもこちらの記事で扱っています。 ワタシは80年代のan・anは読んでいたのですが、non-noは全く読んでいなかったので全く比較ができず、アンノン族と一括

『清里幽靈事件』『滑雪場幽霊事件』購入レポート

前回、壮絶な長さの記事を書きましたが、この時点では「海外版の本の情報、画像については確認できた」状況でした。(この記事の執筆後に台湾版コミックス情報を反映させています) 今回は台湾版のコミックスを両方入手したのでそのレポートです。 前回はこちら。 この時に見ていたページはオンライン古書店のページとオークションサイトのページでした。本の画像を見ることができるので実在していることは解ります。最初はそれで充分だと思っていたのですが、どうしても解らないことが多く残ります。 まず

星子ひとり旅シリーズ、幽霊事件シリーズ関連作品

星子ひとり旅シリーズも幽霊事件シリーズも、どちらも人気作品なので関連作品があれこれ出ています。今回はそのご紹介の記事です。 ただし公式で出ている作品は時間も経っていることもあり、新品で入手することは星子シリーズFC刊行の同人誌以外は全ての作品で不可能になっています。未入手の刊行物もあるので、そちらについては情報をお寄せくださると嬉しいです。もちろんここで扱っていない作品についての関連作品情報についても歓迎です。 あと、当時は販促用にイラストを印刷したテレホンカードなどをプレ

トラベルミステリにおける幽霊事件シリーズの独自性について

前回予告した通り、少し時間は経ちましたが幽霊事件シリーズについて語る回です。 電書で今もがっつり読むことのできる星子ひとり旅シリーズと違い、作者の風見潤先生が生死不明という状況もあり、入手はとても難しいですが、序盤の方の巻ならある程度入手しやすいので、リストのリンクも貼っておきます。(後の方の巻となるとちょっとアレなレベルのプレミアがついています) 一作目『清里幽霊事件』が出た1988年07月には、星子ひとり旅シリーズは十作目『ワンペアは殺しの花言葉』まで刊行されていて、

【比較】流星子と水谷麻衣子の違い

幽霊事件シリーズは先発の星子ひとり旅シリーズとかなり差別化した形で企画が作られているようです。 こちらでもある程度取り扱いましたが、特にはっきりと出るのが主人公の造形です。かなり意識して「かぶる部分を極小にした」ように見えます。こうして並べてみると結構がっつり違います。 スポーツ好き少女 vs 文学少女 流星子は合気道部に所属していて、本人のアクションシーンもあります。逆に水谷麻衣子はミステリ好きで推理小説研究会の会誌で自分も文章を書いたりしています。スポーツはスキー以

トラベルミステリにおける星子ひとり旅シリーズの独自性について

『少女トラベルミステリ』は、それまで少女向け作品では存在しなかったロングセラーのトラベルミステリシリーズ、山浦弘靖『星子ひとり旅シリーズ』と風見潤『幽霊事件シリーズ』を扱っています。 星子ひとり旅シリーズが大人気になった後に幽霊事件シリーズが始まっているので、まずは星子ひとり旅シリーズのことを書かねばなりません。古いシリーズなので「実は読んだことがないんだよね」という方も多いかもしれませんので、解らない人はあらすじも引用してあるこちらのリストをチェックしてもらえると嬉しいで

山村美紗作品がトラベルミステリに与えた影響問題

現在、ミステリにおける山村美紗作品の影響を語る人はほとんどいません。十代、二十代でミステリが好きな方は一冊も読んだことがないかもしれないし、名前すら聞いたことがないかもしれません。本屋ではもう既に新刊は並んでおらず、読みたい人は古本か電子書籍しか入手の方法がありません。 そしてワタシを含む中高年には2時間ドラマ隆盛の時期に席巻しまくった印象が強く、読んでないのに知っている人がたくさんいました。2時間ドラマにおける山村美紗先生の影響は計り知れず、京都の各所に山村美紗作品の殺人

少女に気軽な一人旅が届くまで問題7

今回は1952(昭和27)年、日本が独立国に戻る前の話から進めます。日本の経済が復興してきて、既に占領中にもある程度旅行を楽しむ余裕も出てきています。 一人旅を楽しめる余裕が出る前に、まず語らねばならない要素があります。子供達の修学旅行です。実は戦時中もかなりぎりぎりまでは神社への聖地参拝旅行が行われています。修学旅行には神社への参拝に行く訳です。(ちなみにワタシも小学校の修学旅行でも行き先が伊勢志摩だったので伊勢神宮に参拝しています。市内の他の学校では奈良京都だったのです

少女に気軽な一人旅が届くまで問題6

前回、降伏文書に調印されて日本がGHQ占領下になったところで終わりましたが、その話に入る前に旅客機関係の話を挟みたいと思います。 日本で初めて民間定期航空路が開通したのは1922(大正11)年、日本航空輸送研究所が開設した堺──高松線です。堺市の大浜水上飛行場として小松島、高松──松山、大分、白浜などへ向かう路線があったそうです。 日本で一番早く提供された「民間人の乗れる旅客機サービス」です。 1923(大正12)年、朝日新聞社が設立した東西定期航空会が発足。当初は郵便業

少女に気軽な一人旅が届くまで問題5

鉄道連絡船に寄り道しましたが、1926年、とうとう昭和を迎えました。 まずはこの時点での交通についてざっくりと説明します。 青函航路があるので青森──函館間の乗り換えOKです。北海道に鉄道連絡船で行けます。 関門航路があるので下関──門司間の乗り換えOKです。九州に鉄道連絡船で行けます。 宇高航路があるので宇野──高松間の乗り換えOKです。四国に鉄道連絡船で行けます。 関釜航路があるので下関──釜山間の乗り換えOKです。朝鮮に鉄道連絡船で行けます。長春まで行けちゃいます。

少女に気軽な一人旅が届くまで問題4

ここまで来て大変重要なことを忘れているのに気が付きました。 船です。 「鉄道の話じゃなかったの? 船旅の話?」とお思いになるでしょうが、鉄道移動する際の合間にある船移動ターンの話です。 今は九州と本州を繋ぐのも、北海道と本州を繋ぐのもトンネルがあります。四国と本州を繋ぐのも瀬戸大橋があります。それ以前にはそうではなかったというのを完全に失念していました。今は鉄道で行けるのに、当時は鉄道だけでは行けない場所があるのです。 まずは昭和の鉄道状況に入る前に、鉄道連絡船について説