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美のない人生は虚しい
このところ続けてフランス映画を観ている。
ハリウッド映画で育った私は、数々のフランス映画のタイトルこそ知ってはいても、ほとんど観たことがない。
もっとも、映画音楽が好きな母の影響で、フランス映画に使われた映画音楽は好きである。
いくつか観た中で、気に入った作品がひとつある。
邦題は『ローズメイカー 奇跡のバラ』。
コメディに分類されているが、ヒューマンドラマと言った方が良いかもしれない。
フランス映画でもこういうタッチのものがあるのかと思うくらい、わかりやすいハリウッド映画様の作りで、寝る前に観ても気分を害さない、素敵な物語である。
原題は『La Fine Fleur』。直訳すると「繊細な花」「上質な花」だろうか。
興味深いことに英語のタイトルは『The Rose Maker』である。そのまま素直に"The Fine Flower"と訳すこともできたはずである。
原題には「バラ」なんていう単語はひとつも使われていないにもかかわらず、邦題と米題は「ローズ」をつけてしまった。
なんだかとても陳腐だ。これがアメリカ映画の”わかりやすさ”であり、”奇跡のなんちゃら”が好きな邦題のセンスなのである。
しかし、なぜ原題に"rose"を入れなかったのか、むしろそちらが気になった。
主人公である天才的なバラの開発者エヴが、前科のあるフレッドの嗅覚の才能を見抜き、香水の道へ送り出すときに言う。
La vie sans la beauté,c'est quoi? (美のない人生は虚しい)
ここから想像するに、原題の『La Fine Fleur』は、「美しい花」であり、「美を作る人々」「美しい人々」を指しているのではないか。
バラが美しさのメタファーなのだ。
美しい景色、美しいバラ、心の美しい人たちの美しい映画だったので、思わず観たその直後、美しいものが好きな人にお勧めした。
その映画に関心を持ってくれるかどうかはわからないが、きっと美のある人生を歩んでくれるに違いない。