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azurehoho
【ショートショート】夕刻の階段
放課後の階段に、影が長く伸びている。
「あのさ」
声をかけられて振り返ると、彼が一段下に立っていた。制服のボタンが外れている。
風が吹く。リボンが揺れる。
部活の掛け声が遠くから聞こえてくる。
「放課後、いつも一緒に帰ってるじゃん」
「…うん」
手すりが冷たい。
「なんでかなって」
「え?」
「考えてたんだけど」
いつもは饒舌な彼が、珍しく言葉を詰まらせる。
私も、何も言えない。
目が合った。
慌てて逸らした目が、また戻る。
「もしかして」
一歩、上がってくる。
「待ってくれてる?」
鼓動が早くなる。
返事をしようとして、声が出ない。
けれど、頷いていた。
「そっか」
照れくさそうに後ろ頭を掻く。
「実は、俺も」
夕陽が差し込んでくる。
二人の影が重なった瞬間、誰かが下駄箱の方でドアを開ける音。
慌てて距離を取る。
でも、伝わった気がする。
そう、全てが。
明日も、この階段で。