見出し画像

事業継続のために必要なことは何か?


BCPは、企業のサステナビリティ向上のために欠かせない事業継続計画です。
特に自然災害の多い我が国において、企業の持続可能性をステークホルダーから安心して評価されるためには、納得性の高いBCPの策定が必要となります。
私自身が東日本大震災の復興支援のため3月17日から20日間、岩手県の釜石市、大船戸市、宮古市を訪問した経験を踏まえた内容を記載させていただきます。
少しでも私の経験やこの記事を参考にしていただけると幸いです。

被災地の道路

大震災等の大規模災害が発生した場合、災害対策基本法等に基づく交通規制が実施され、車両の通行が禁止されます。(警視庁「災害時における緊急通行車両等の申請手続きについて」

ただし、災害応急対策等に従事する車両は、所定の手続きを受けると標章と証明書が交付され、標章を車両に掲示することで規制区間を通行することができます。

東日本大震災時、私は医療機関等への食事提供サービスを行う企業で従事していたこともあり、被災地域への支援物資搬送ということで緊急通行車両の許可が下り、有志30名が被災地支援に向かう事になりました。
被災から6日経過した高速道路は片側のみ補修工事されていましたが、通行時は速度制限が設けられ、また多くの道路はうねり、ひびが入っている状態でした。
高速を降り、被災地域へ向かうと瓦礫の山、浸水エリアと迂回をしても目的地にたどり着けない事も多々ありました。
特に自衛隊による瓦礫の撤去が行われてはじめて通行できることも多く、また幹線道路から少しずれると瓦礫の撤去は進んでいないため、人の手で動かせる瓦礫などは人数をかけて撤去をし、車両が通行できるスペースを確保したことを今でも思い出します。
被災地でのロジスティクスは、瓦礫がいつ撤去されるかで変わるため、現地での状況確認が必須になります。

そもそも事業継続計画とは、自然災害やコロナのような感染症拡大・テロ攻撃・システム障害・火災・サプライチェーンの断絶などに緊急事態が発生した際、損害を最小限に抑えて事業を継続し早期復旧を果たすために策定する計画だと思いますが、実際に災害現場を見て思う事は、事業継続計画はサプライチェーンが完全に断絶することを想定した上での対応が必要だと感じました。

災害時は自助から

(備蓄について)

「自助」は、自分自身で身を守る取り組みや行動を指します。災害発生時に、まず自分の命を守るために何をすべきか考え、実行することが最も基本的なことです。
企業も同じで、大規模災害においては自ら対応することが重要だと思います。

首都直下地震による帰宅困難者対策として、東京都の条例では「事業者は、前項に規定する従業者の施設内での待機を維持するために、知事が別に定めるところにより、従業者の3日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資を備蓄するよう努めなければならない。」とされていますが、大規模災害時ではインフラの復旧は1週間程度かかると言われています。
この3日の根拠は災害発生の人命救助デッドラインが72時間だからです。
発災してから3日間(72時間)は国や自治体は救助・救命を最優先にするため、人命救助が必要でない方は、社内などの屋内で3日間避難になります。

けれど、3日後にインフラが復旧していない場合は備蓄品がなくなるケースがあり、また近隣にあるコンビニが商品の補充をされていない場合は多くの人が食糧難民になる可能性があります。
また、備蓄する際は保管場所が被災して取り出せなくなるケースもあるため、複数の場所に分けて保管することが望ましいです。
備蓄品は常に保管するだけでなく、ローリングストックと呼ばれる普段から少し多めに購入、または備蓄しておき、製造日の古いものや賞味期限が近いものから使い、使った分は新しく購入することで常に⼀定量の備えがある状態を保つ方法などを活用している企業が多いです。

(備蓄食の確認点)

備蓄食を選定する際、その商品は最適か、また喫食する人に適しているか考える必要があります。

過去、私が確認した先で備蓄食にアルファ米とビスコと水を選定している介護施設がありました。
実際に訓練で試食してもらったところ、アルファ化の状態の米に水を使うと、一人当たりコップに半分くらいの水しか残りませんでした。
この状態でアルファ米とビスコを食べようとすると、健常者でも口の中の水分が足りずに食べるのが困難な状態でした。
この確認した介護施設は9割が噛む、飲み込むに障害がある方であったため、備蓄食の見直しをすることになりました。

備蓄食は災害を想定した形で試食をすることで、その商品が適しているのか、また、備蓄量が最適かわかります。
アルファ米など水を必要とする備蓄食を選定している場合は、水の備蓄量を見直す必要があります。
※欧米の研究の成果によると水の必要摂取量の目安は生活活動レベルが低い集団で 1日2.3リットルから2.5リットル程度、生活活動レベルが高い集団で1日3.3リットルから3.5 リットル程度と推定されています。(公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「水は1日どれくらい飲めば良いか」

(停電時の対応)

インフラ不通のうち、停電の影響範囲を確認しておくことも大事です。

非常用電源があるビルも増えていますが、誘導灯など最低限に使用している場合もあります。

給排水が電気制御されている場合は停電とともに給排水設備も使用できなくなります。また、非常階段に窓がない場合、停電になると真っ暗で何も見えなくなる可能性があります。

私が東日本大震災で経験した建物は、非常階段に窓が無く、また非常用電源もなく、誘導灯も灯っていなかったため、非常階段を上り下りする際は「上ります!」「おります!」など声をかけながら移動していました。その声を聞いてぶつからないように移動していました。

備蓄品として懐中電灯やソーラーランタンを用意することを私はおすすめします。
サラダ油ランタンやツナ缶ランタンなども一つの手法ではありますが、設置場所が不安定な場合、二次被害で火災になるケースもあるため火元には十分注意が必要です。 (警視庁「サラダ油で簡易ランプ」

また、停電の影響はガソリンスタンドにも及びます。
停電になってもガソリンスタンドが営業できるように自家発電設備を持ち、災害時でも住民向けに燃料供給を続けられる給油所の場所については事前に調べておきましょう。(資源エネルギー庁「住民拠点サービスステーション」

(衛生面の担保)

災害後は衛生面をいかに保つかが重要になります。汚染区域、非汚染区域の徹底と排水ができないことや、水で手指の洗浄ができないことから、アルコール消毒の徹底が必須になります。
そのため、ある程度余剰に消毒用のアルコールを確保しておく必要があります。

(地震以外の災害)

地震だけでなく、他にも想定する災害はあります。地震と違って事前に予測がしやすい大雨や河川の氾濫なども事業継続計画に盛り込む必要があります。
水害の場合は市区町村のHPでハザードマップを確認し、事業所の浸水状況や避難場所の確認を行いましょう。

※避難場所と避難所の違い
避難場所は津波、火災、洪水などのリスクから命を守るために緊急避難する場所
避難所は災害によって自宅に住めなくなった人が一時的に共同生活を送る場所

出所)NHK防災「似ているようで違う!「避難場所」と「避難所」の違いとは?」

(マニュアルの整備)

事業継続計画を立てた場合、マニュアル作成と周知が大切です。

特に災害が発生すると、電話の接続処理が滞るだけでなく、継続するとサービスが全て停止し、110番や119番への緊急通話にも影響が出てしまう恐れがあるため、必要な通信制御がかかります。
災害発生後に報告・連絡・相談するのではなく、状況に応じて対応を事前に決めておくことが大切です。
例えば業務時間外に災害発生し、交通機関が不通の場合は連絡手段が回復するまでは自宅ないし、避難所での待機などが考えられます。

(訓練の実施)

備蓄食の試食も該当しますが、マニュアルを作成しても、その通りに対応できるのか確認することが必要です。

複数の拠点を有している企業では、本社が被災した場合の代行拠点を事前に決めていることも多いですが、システムの権限移譲や作業が滞りなく実行できるのか、給与や支払い業務の代行ができるのかなど訓練していることが多いです。

協力会社との共助

本来の「共助」は、地域社会や会社など、身近な人々と協力して助け合うことを指しますが、事業継続計画では取引先のBCPの確認が該当します。
企業が事業継続に備えるためには、自社が被災した場合の想定だけではなく、仕入先などの取引先が被災し、商品・サービスが供給されなくなった場合にどうするか事前に検討しておくことが重要です。

BCPは災害だけでなく、食糧調達の場合は気候変動による不作、海外企業との取引の場合は政治不信やテロなどによる貿易停止なども含まれます。
そのため多くの企業では代替調達や、調達先を複数持つなどのリスクヘッジを行っていることが多いです。

(協力会社と連携した訓練の実施)

自社だけではなく、協力会社と連携してBCPの訓練を行っている企業もあります。

特に首都直下型地震などで本社機能が集中している首都圏が被災した場合、自社の代行支店と協力先の代行支店で業務が継続できるのかを確認している企業もあります。

ただ、単に連絡先だけを共有する・マニュアル作成だけではなく、具体的に訓練をすることで問題点や改善点が見えてきます。

公助の支援物資について

公助での支援物資は、地方から被災地域に集められ、振り分けた後に各避難所に届けられるケースが多いです。
おにぎりやカップラーメンなどの炭水化物がメインで届くことが多いです。この際、量を確保し、迅速に被災地域への配送を行うためアレルゲンなどは配慮されていませんので注意が必要です。

最後に

事業継続計画とは企業が自然災害、大火災、テロ攻撃等の緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段等を取り決めておく計画のことです。

活用できる経営資源が限定される緊急時に、優先して復旧すべき中核事業を絞り込んでBCPを策定し、緊急時にそれを遂行することで復旧度合い、スピードには大きな差が現れます。様々な災害の発生を想定し、それに備えることで不測の事態に遭遇しても業務を早期に復旧させ取引先や顧客に対する供給責任を果たすことができます。


▼「自然災害への備えとレジリエンス強化」関連の求人はこちら(グリーンジョブのエコリク)


【グリーンジョブのエコリク 概要】
環境サステナビリティ領域の人材サービスを長年行っている株式会社グレイスが運営する求人サイトです。サステナビリティ、CSR、ESG、SDGsに関わる採用・就職・転職のサポートをしています。


【人材をお探しの方はこちら】

サステナビリティに特化した人材紹介


【執筆者】
神戸 修(こうべ おさむ)

株式会社グレイス ゼネラルマネージャー
大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒
学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事
アニュアルレポート、統合報告書の作成
東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける


👉サステナビリティやキャリアに役立つ独自情報を発信しています。お役に立てた記事のハートマークや、プロフィールページの「フォローする」を押していただけると嬉しいです!


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集