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【もしうし#1】もしも妹が科学の力で僕を牛にしちゃったら!?

灰色の天井が低く、淡い光が四角い部屋の中に差し込む。ここは美咲の秘密の研究室だ。一面には無数の書類が広がり、壁一面には様々な化学式が書かれている。彼女の目が疲れても、愛情を込めて作り上げた電子マイクロスコープの明かりが彼女の情熱を照らしている。

美咲は孤独を愛する人間だ。人々と接することが難しく、自分の研究に没頭することで安堵を感じる。彼女の研究室は彼女の隠れ家であり、彼女が社会と繋がる唯一の窓だった。

彼女が長い時間をかけて発明したのが「動物合体マシーン」だ。このマシーンは、異なる種の動物の特性を組み合わせて、新しい生物を創り出すことができる。美咲は、自然界にはない生物の可能性を追求し続けていた。

ある日、美咲はマシーンの前に立ち、新たな実験を行うことを決めた。彼女は長く悩んだ末、猫の柔らかさと鳥の飛行能力を組み合わせることを決めた。操作パネルに複雑なコードを打ち込むと、マシーンは静かに動き出した。

光が閃き、マシーンの中には新たな生命が誕生した。猫の身体と鳥の羽根を持つ、まるで神秘的な生物だ。美咲は驚きと感動で目を輝かせた。彼女の孤独な努力が、この瞬間に結実したのだ。

しかし、美咲は研究成果を他人に見せることを避けていた。彼女はこの新しい生命を自分だけの秘密として大切に育てることを決めた。それは彼女の孤独と研究への愛情、そして新たな生命への深い愛情が生み出した決断だった。

そして美咲は、この新たな生命と共に、科学者として、そして母としての新たな日々を歩み始めた。

美咲が新たな生命を見つめる瞬間、重厚な研究室のドアがゆっくりと開かれた。それは彼女の兄、翔平だった。

翔平は美咲とは違い、人々と接するのが得意な実業家だ。彼の明るい笑顔と冗談好きな性格は、美咲とはまるで正反対だ。しかし、彼は美咲のことを理解し、彼女が社会と繋がらなくても彼女の研究への情熱を尊重し続けていた。彼が美咲の研究に必要な資金を提供してくれたおかげで、美咲は安心して研究を続けることができていた。

「また新しい発明をしたのか、美咲?」

翔平の声は明るく、しかし柔らかだった。美咲は彼に感謝の念を抱きつつも、新たに誕生した生命体を見せるべきか迷った。しかし、翔平は美咲の研究を尊重し、彼女の秘密を守る人だった。

「うん、お兄ちゃん。見て。」

美咲は少し照れくさそうに、新たな生命体を翔平に見せた。翔平の目が驚きで広がったのを見て、美咲は自分の発明に自信を持った。翔平は彼女の努力を認め、そして尊重してくれていた。

彼らは異なる世界を生きている兄妹だが、一つの理解と尊重によって絆で繋がっていた。そして美咲は、翔平と一緒に、新たな生命体を見つめながら、孤独ながらも愛情深い研究の日々を過ごすことを決めた。

「なんだこれは...!?」

翔平の驚きの声が研究室に響き渡った。それは彼が初めて見る合成生物、猫鳥が飛び回っているのを目撃した瞬間だった。その神秘的な姿に見とれているうちに、彼の足元が不安定になり、マシーンの方へとつまずいてしまった。

美咲は即座に兄の方へ駆け寄ろうとしたが、彼がマシーンに落ちてしまう前には間に合わなかった。兄の安全を確認した後、美咲の中に一つの疑問が浮かんだ。

「もし人間がマシーンに入ったらどうなるだろう...?」

それは彼女がこれまで避けてきた問いだった。彼女のマシーンは動物合体を目的に作られたもので、人間への影響は未知数だった。だが、翔平が偶然マシーンに落ちてしまったことで、彼女の中の好奇心が再燃した。

彼女は躊躇いつつも、冷蔵庫から取り出した牛肉をマシーンにセットし、翔平と一緒にスイッチを押した。

マシーンは再び静かに動き出し、その中で何が起こるのか、美咲は息を呑んで見守った。

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