山と川が元気になる、登山道整備。
トレイル整備に参加してきました
Hさんに声をかけてもらい、青梅市の古刹・即清寺の上にある八十八めぐりのトレイル整備に参加しました。このコースはふもとに駐車場があり、道迷いも少なく、初心者にも優しいトレイルです。八十八番の上にはすばらしい眺めのスポットもあります。
登山道が荒れる原因
そもそも、なぜ登山道が荒れるのでしょうか。
多くの人が歩くと道が踏み固められて凹んで、水が流れやすくなります。流れる水が土を削り、道がさらに掘れていきます。急斜面では泥が集まり、ツルツルした歩きにくい道になります。
登山道が荒れる主な原因は、水です。水の流れを理解することで、対処方法を考えやすくなります。
水の影響
水が走るから荒れる:水が集まると勢いが増し、土を削る力が強くなります。踏まれてへこんだ登山道は水の通り道になりやすく、これがツルツルになる原因です。
水がたまるからぬかるむ:傾斜がなくて水が集まるところは、ぬかるみます。これを防ぐには、水を分散させるのと同時に、停滞している水を動かす必要があります。
「整備」と「修復」と分けて考える
登山道の状況を病気に例えてみるとわかりやすいです。
病気とはいえない症状だけが出ている状態でケアする=整備
末期がんのように大がかりな手術が必要な状態から回復させる=修復
この記事ではわかりやすいように、ひどくなる前の作業を「登山道整備」、歩きにくくなった道を直す作業を「登山道修復」と呼び分けることにします。
登山道修復が必要なのが、歩くのに支障があり、山の環境にとっても問題のあるレベル。病気にたとえると、ガンになってる状態です。
このレベルまできてしまうと、大掛かりな手術=修復作業が必要です。
大きな丸太を運んだり、石を積んだり、人手もチカラも、材料もいります。大きな道具が必要になるので、運ぶだけでも大変です。
提案したいのは、”未病”の状態で対応すること。
道が荒れはじめた状態は、病気の兆しが出はじめたのと似ています。症状は出ているけれど、まだ不具合を感じないレベル。身体にたとえると、だるいとか疲れやすいとか胃が痛いとか、まだ病気にはいたっていないけれど、体調が悪い状態です。
そうなったときに、お酒をひかえるとか、体重を落とすなどして病気にならないようにするのと一緒で、このタイミングでメンテナンスすれば、大掛かりな修復が必要なくなります。
小さな手道具でできるので、マメに整備できます。
また軽作業が中心となるので、チカラのない女性や子どもでも、作業に参加しやすくなります。
掘れてしまった登山道の修復方法
まずは荒れてしまった登山道の修復について書きます。
登山道を削るのは、斜面を速く走る水が原因です。できるだけ水の勢いをゆっくりにさせることで道が削られにくくなり、修復した道を保持しやすくなります。
歩行者が多くて荒れるのは、急な斜面に対して直登している道で起こりやすいです。
水の動きをゆっくりにするには、①硬いものにぶつける、②角度を水平×垂直に変える、③分散させるといいです。
具体的には、以下のふたつを意識します。
丸太や石段で段差をつくって、水の勢いを弱める
水をしみ込みやすくして、表層を水が流れないようにする
丸太を設置する
(以下の方法は、先日のトレイル整備での作業を参考に、付け加えて書いています。トレイル整備でご一緒させていただいたみなさんは、岡崎哲三さんの近自然工法に倣っているそうです。)
段の水平×垂直を水が乗り越えるたびにスピードを弱め、水を分散させます
流れてきた水が丸太にぶつかり、勢いが弱められます
丸太は角度と長さを変えてランダムに設置します。歩幅が限定されないので、片足だけに負担がかかりにくくなります。(東京都観光局の山本さんのやり方です)
丸太の長さを変えることで水が走りにくくなります。なぜなら丸太の長さが揃っていると、階段の両脇に水が集まりやすく、そこが掘れてしまうからです
丸太の山側に石や粗朶木を入れるとたくさんの小さなすき間ができて、さらに水が土中に浸透しやすくなります。木の枝や葉、小石などをのすき間が抵抗をつくり、ゆっくりにもしてくれます。
以上のように、丸太で段差を作り、石や粗朶木を入れると、水が一か所に集中せずに分散されます。水の勢いもゆっくりになるので、土が削られにくくなります。
石段を積む
・土が洗い流されて岩々のところでは、石を積んで段をつくります。
石垣と同じように、石段の裏(山側)にはグリ石を詰めて安定させます。石と石のすき間に枯葉などを詰めておくと、土壌が安定します。
丸太を置くのと一緒で、段を乗り越えるたびに水の勢いが弱まります。石と石のすき間を水が流れるので、それ以上削られにくくなります。
水が登山道へ集まらないように整備する
土中の水の流れ(水脈)を見る
登山道が荒れる原因は、水を集めてしまっていることです。どのように水が道に入りこんでいるのかを見て、対処します。
水脈は、①地形、②石の大きさ、③植生などから読み取ります。
①地形から
地形を見て、水の流れを判断するといいです。単純に凹んでいるところを見ます。ちょっと離れて眺めたほうが、水の通り道を探しやすいです。
②石の大きさから
水がひんぱんに流れているところでは、大きめの石が目につきます。なぜなら、泥や砂など細かな土砂は軽いので、水流で先に運ばれてしまうからです。
③植生から
黒土で植物が生えているところでは、生えている植物がヒントになります。シダやドクダミなど、水の好きな植物が並んで生えているところが水脈です。
水脈の見つけ方については、以下のページに詳しく書いています。
柵(しがらみ)を作る
登山道へ流れこむ水をできるだけ少なくするために、柵(しがらみ)を作ります。水平×垂直の段差によって、道の手前でしみこませ、分散させるのがねらいです。
柵の作り方はこちら。
大きな柵(しがらみ)は効果的ですが、山の中では材料の調達が大変です。周辺の枝葉を使った小さな柵でも、効果があります。
小さな柵は、費用も労力も少なく、持続可能です。小さな手道具で作業できるので、体力がない人や子どもも、作業に参加できます。
土中の水の動きを考えた整備のメリット
土中の水の動きを考えた整備には多くのメリットがあります。
・移植ゴテ(スコップ)やペグ打ち用のハンマー、ノコギリなど、小さな手道具で作業できます。
・材料を周辺から調達できるので、運搬の労力や費用がかかりません。
柵は、直径数センチの枝などでも作れます。
・大きく土を動かさないので、まわりの環境にも影響が少ないです。
・水が土中に浸透しやすくなることで、土の中の微生物の活動が活発になります。植物の根に菌根菌もつきやすくなり、周辺の草木も元気になります。
・のちのち、川のようすも変わります。
大雨が降ったときに川の水位上昇が緩やかになります。山の水の動きがゆっくりになって、一気に川へと流れこまないからです。
草木の根が土を押さえてくれるので、土砂が流出しにくくなります。浸透しながら濾過されて、水がきれいになるなどの効果も期待できます。
なによりも、いろんなひとが活動に参加しやすくなります。
登山道修復作業では、大きな材料、威力のある道具を使うので、体力のあるひとしか関われません。
症状が出はじめたタイミングでの作業なら、体力のない人や子どもでも、登山道整備に参加できます。
都市部に住んでいると、土をいじる機会があまりありません。道のメンテナンス作業に関わることで、山歩きとは違った自然体験にもなります。
たくさんのひとが登山道整備に関わることで、歩き方の改善、アウトドア活動が与える負荷などを考えるきっかけにもなるでしょう。
[参考]
山も川も元気になる道づくりのやり方は、こちら。
都心に近い山だからこそ
都心に近い秩父多摩甲斐国立公園では、多くの人が山を訪れます。逆をいえば、土中の水を考えた登山道整備に多くの人が関わりやすいということでもあります。
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登山道を崩さない、負荷をかけない歩き方も、みんなが知ってくれるとさらに荒れにくくなると思われます。
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