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水を走らせない、段差の作り方
台風や大雨が続くと、山間部に住んでいるひとは裏山の崖が、登山道整備をしていると登山道の崩れが、気になりますね。
安定させて崩れにくくするには、土地が水によって削られないように造作するといいです。
水が集まりやすい形状のままにしておくと、どんどん周りを削ってしまうので崩れがひどくなっていきます。崩れるのをおさえるためには、できるだけ早めに対処していきたいです。
水が「走る」なら、ゆっくりに
「水が走る」とは、水が勢いよく速く流れているようすのことを指します。
流量が多くスピードがあると、地面に吸収されにくく、勢いが増しながら周りを削り取ってしまいます。
水が走って土砂が削られやすいのは、こんな状態です。
①集まる
②傾斜がある
③つるつるしている(抵抗が少ない)
こういった条件がそろうと、流速が増しやすいです。
水が集まって速まるなら、❶分散させる
水が傾斜に沿っていて速まるなら、❷ 流れの方向を水平に近づける
水がるつるして抵抗がなくて速まるなら、❸硬いものにぶつける、凸凹にする
以上のように水を誘導して、流れのスピードをおさえ、ゆっくりにさせます。❶分散、❷水平、❸ぶつける、が組み合わさるほど効き目があります。
流れを減速させるふたつの方法
要所がわかったら、そこの水脈を中心に流れを減速させる方法を考えます。減速させるには、大きくふたつの方法があります。
ひとつは「段差」、もうひとつは「蛇行」です。場所に応じてどちらかの方法を選びます。
段差
段差は、傾斜の強いところで使う方法です。
水脈の上、または水脈付近につくります。流れている水をせき止めるイメージです。主だった水脈に入りこむように見える凹みにも段差をつくります。
ちなみに、林業地でやっている地拵え(じごしらえ)は、谷地形のところに高めのものが、里山にある棚田は、等高線に沿った段差といえます。
蛇行
蛇行は、傾斜のゆるいところで使う方法です。
蛇行させることによって、斜面に対して横方向に水が動いて減速します。カーブの部分では壁にあたって減速します。蛇行は、曲がる部分が掘れやすくなるので、水を硬い壁に当てて曲げるか、垂直方向の硬い石に落とすと、まわりを削りにくいです。
急傾斜の場所では、横に蛇行させる、と植物の居つかないむき出しの裸地が広くなってしまいます。段差を組み合わせて、上下方向に水を動かすようにします。
蛇行した道は、段差+蛇行の効果
緩やかな斜面では、蛇行した道を作ると、段差+蛇行の効果が期待できます。道を作る際には、水脈ではないところにつくるのが理想。水脈を横切る場合には、できるだけ勢いの弱いところを通過する、もしくは段差の奥行きを深くするなどの対処をするといいです。
今回は段差を解説します
段によって、一か所の集まっていた水が広がり、分散されます。①
水平面で水が土中に浸みこみ、下流方向へと流れる水が減ります。①
流れの角度が水平に近くなり、水の動きがゆっくりになります。②
垂直方向へ落ちることで、地面にぶつかって減速させられます。③
段を越えるごとに、減速していきます。
そのわかりやすい例が、棚田です。
「段差」を作る手順を、詳しく説明していきます。
段差をつくる手順
目に見えないけれど、地表近くを流れる水の動き(=「水脈(すいみゃく)」)を見つけます。その水が土地を削っていくので、主だった水脈の上、そこへ流れこむ小さな水脈の上に段差をつくります。
材料は、その場にあるものをできるだけ使います。土と植物があるところでは、木の枝、葉、土を、黒土がほとんどなく、石が多いところでは、石を積んで段差をつくります。
1 全体の流れを見る
地中を流れる水の場所を確認してから、作業を始めます。流れがわかると、対処したほうがいい要所を見つけやすいです。
水脈は、高いところ、離れたところから眺めるマクロの視点と、地形や植生、土砂の大きさなどを観察するミクロの視点から、どこに水脈があるかを探します。
2 影響しているもの、されているものを見極める
崩れているところが直接気になりますが、崩れる元となる水の流れと、崩れやすくする土台の部分にも注目します。
「崩れる元」とというのは、水が流れ出す部分、水脈の上流側です。多量の水が供給され続けると、崩れやすいところを直しても、また崩されてしまいますう。
「崩れやすくする土台の部分」というのは、崩れているところの谷側の部分です。ここが安定していないと、段差をつくっても脆いです。
どこからの水が崩れの原因になっているのか、安定している土台部分はどこなのか、を確認するといいです。
具体的には、山側の水が流れ出す上の部分にも段差をつくる。崩れが気になる部分に水が流れ込まないように先んじて分散させてしまうイメージです。
崩れの下の部分が安定していなかったら、まずはそこを安定させる。崩れやすいようだったら、積む、空洞になっている部分に石や枝葉を入れるなどして、流れ出さないようにします。
上下二方向を同時に見ていきたいです。
2 段をつくる
段差を作ることで、以下のような効果があります。
垂直部分で水が下に落ちて地面(硬いもの)にぶつかる
水平面が流れを緩やかにする
水平面が水を湛えてしみ込みやすくなる
段を乗り越えるときに分散される
これは、棚田やワサビ田も同様のはたらきがあります。
実際に、2011年の夏に起きた紀伊半島大水害でも、那智勝浦町色川地域は、棚田の上流にあたる斜面では土砂崩れが抑えられていました。
また段差は、水平な面ができるので、植物が芽吹きやすいです。常にズルズルと土砂が動いている斜面よりも、植生が戻りやすくなります。植物が生えると、根が土を抱え込んで土砂が流出しづらくなり、土地をさらに安定させやすいです。
段差の大きさは、大きいほど効果が高いですが、労力と費用がかかります。小さいものは効果も小さいですが、材料を集めやすく、チカラのない子どもでもできます。
広くて広大な場所なら大きく、狭くて脆い場所は小さくなど、場所と目的に合わせるといいです。
やり方
土が多く、杭を安定して刺せるなら、①柵(しがらみ)が、土がほとんどなく、石や砂利が多いところは、②石積みがやりやすいです。
手に入りやすい周辺のものを使えば、結果的に、その土地に合った材料を使うことになります。
枝葉をつかう「柵(しがらみ)」
1)溝を掘る
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2)杭を打つ
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杭は、2本以上であれば、何本でも連続していいです。生木の杭は繊維に粘りがあって、柵が保たれやすい。表面を焼いた杭だと、さらにいい。
3)枝を杭にかけるように横に置く
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枝葉は、できるだけギュウギュウに詰めて密着させます。くっつきあって動かないほど、微生物有機物の間にが住みつきやすくなります。
ゆらゆら揺れたり、空間が多いと、微生物が生息しにくいです。また、すき間を水と空気が流れてしまうので、段差の効果が薄くなります。
ツンツンはみ出ている枝は揺れる原因になるので、切って、すき間に差しこんでしまいます。
3)土を平らに入れる
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斜面と柵の間に、土を入れます。斜面が安定しているなら、垂直に切り取った土をそのまま平らに均します。
水平になる面を「かまぼこ型」にすると、段の形状が維持されやすいです。
4)炭を平らに撒く
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土が痩せているようなところでは、炭を平らに撒くといいです。炭の多孔質で微生物がつきやすい性質が、まわりにある落ち葉や枝葉を栄養豊かな土壌に分解を速めてくれます。
5)落ち葉を平らに撒く
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落ち葉を上にかぶせると、土がむき出しの状態よりも水分が保たれ、土の中にいる微生物の働きを手助けしてくれます。
6)層を作る
可能であれば、土を入れる、炭を撒く、落ち葉を撒く・・を繰り返して、ミルフィーユのような、水平な薄い層をたくさん作ると、有機物が分解されて植物が居つきやすい土壌になります。
同時に、水平に水が広がりやすくなるので、浸透させやすくもなります。
石や砂利をつかう石積み
1)斜面に溝を掘る
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2)根石を置く
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ベースとなる根石(ねいし)は、山側に重心がいくように安定させます。手前(谷側)に重心がくると、手前に滑り落ちてきてしまいます。
根石の上に何段か石を積む場合には、上面の形状にも注意したいです。
3)石を積む、グリ石を入れる
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段を高くしたければ、この上に石を積んでいきます。上に積んだ石と山側のすき間に、小さな石(「グリ石」と呼びます)を入れて安定させます。載せた石の重さで根石を抑えるように、積みます。さらに積む場合にも、上面の形状にも注意します。
石の積み方については、この本が参考になります!
段は、ランダムに配置する
段差は、ランダムに配置したい。水が分散され、勢いがつきにくい。
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山側からきた水が、段差にぶつかって分散されます。ランダムに配置されていると、越えていくにしたがって勢いが弱まっていきます。
タテに並んで段差を作ると、列の両際に水が集まり、走りやすくなってしまいます。段差をつくることによって、逆に水が勢いよく走る部分を作りだしてしまいます。
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水は両際に集まるので、勢いがつきやすくなります。
登山道で見かける木段も、この水の流れによって、両脇が掘れてしまっています。
まとめ
段差は、すぐには効果を感じられませんが、水の分散、浸透の効き目がゆっくりと出てきます。はじめは壊れたり、崩れやすかったりするかもしれません。枝葉の詰め具合や、土の盛り方などの加減がわかるようになると、土がしっかりして、水平の面に植物の芽が出てきたりします。垂直に切りとった土の壁にも苔がついて、崩れが抑えられるようになります。
忘れたころに効果が出てきます。経過を楽しみながら、段差をつくってみてください!
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土中をめぐる水講座は、毎日おひとりから開催しています。