有馬温泉 陶泉 御所坊における コロナの3年間の軌跡
2020年1月中旬、ボイコット・ジャパン運動が終息したのか、韓国のお客様の予約が増えていました。ところが、中国のお客様からキャンセルが入り出しました。
それがコロナ感染症の始まりだったのです。
2023年1月で3年になります。けっこう長く暗い期間でしたが、振り返ってみたら、良かった事もあります。
老朽とアンティーク
御所坊の建物は階段状の土地に建ち、サロンのあるエリアは昭和初期、玄関の棟は昭和20年代。黒っぽい色調の「地久」ランクの部屋の棟は昭和30年代の建物です。
これらの建物がそれぞれ、登録有形文化財に指定されました。何がメリットかよくわかりませんが、単なる古い建物でなく、それなりに価値のあるアンティークだと認められたという事だと思っています。
とは言っても、アンティークではなく、本当に老朽化している部分もありました。
リフレッシュ工事
コロナの期間中は、高付加価値化を図るために、施設を改修する補助が設けられていました。お客様も少ないので、今までできなかった老朽化していた部分を思い切って改修することができました。
① 蕎麦打ち厨房の廃止と食事処の新設
一階の奥に蕎麦打ち厨房を設けていましたが、ここを食事出しが出来る個室レストランに改修しました。
内側の壁の部分を解体すると、予想していたように下部が腐っていました。石垣との間が狭く、雨水による腐食です。
そこで雨水がスムーズに流れるように溝をつくり、コンクリートで床を固め基礎をつくりました。
② 旧厨房、旧配膳室。御所坊の建物の中心部。
昔の建物は、地面の上に束石(つかいし)を置いて柱をたてています。
御所坊の中心部にあった厨房や配膳室の床は、そのつくりでした。
おそらく阪神淡路大震災で束石がずれ、その為に床が沈んでいる所もありました。
床を全てばらして、鉄筋を組み、コンクリートで固めることで、しっかりした基礎をつくりました。
天井もばらして、新たに柱を入れ替え、可能な限り沈んでいた所を持ち上げました。
これは、とても営業中には出来ることではありません。コロナ期間中だからこそできたことです。
これらの部分は少なくとも80年以上前の部分ですから、今後100年は大丈夫だと思います。
今後に向けて
色々な感染症対策をしましたが、終息後も続けて行けるものを考案できたと思います。そしてこれからも宿を維持して行けるように、色々つくりました。
① 一階食事処のテーブル
御所坊の一階の食事処は、4人掛けのテーブル5台と2人掛け2台で合計最大24人のお客様が着席できるようになっていました。
ソーシャルディスタンスを確保する為に、4人掛けと、2人掛けのテーブルを外して、利用できる客数を18名にしました。
問題は殺風景になってしまったのです。どうしたもんかといつも考えていましたが、なかなか結論は出ませんでした。
席数が減ってのでスタッフのサービスの手際は良くなっただろうと思っていましたが、相変わらずでした。
その時、根本的な事を思い出しました。
設計士は、想定する客単価、回転率などから客席数を決めます。そしてそれに合うように客席をレイアウトするのです。
その典型的なのが、カフェドボウのテーブルです。
コーヒーとケーキを提供するのに、必要なテーブルの大きさを決めてレイアウトをして客席数を決めたのです。
ところが御所坊の場合は、その提供するコーヒーとケーキの皿を置く為の大きさが決まっていない。つまり御所坊の料理を提供する為に必要なスペースはいくら必要か!?
そこで1名分の料理を提供する為に必要なスペースを横幅80cm、奥行き40cmと決めました。そして向かい合った席との間を20cm設けることにしました。そうすると湯豆腐の器や鍋物も置けます。20cm以上だと箸が届きにくい。
という事で、二人用のテーブルの大きさは、横幅80cm、奥行き100cmと決めたのです。そうすれば向かい合う人との距離は1m20センチ以上保てる。またレイアウトすると隣り合うテーブルの人との距離も同様に保てます。
そうすると、よくあるアクリル板の板を置かなくても良い。
しかしこのような大きさのテーブルは既製品では見当たりませんでした。
そこで家具作家に製作を依頼したのですが、テーブルの周りに炬燵布団を付けられるように、そしてテーブルの中央の裏側に豆炭炬燵を付けてもらうようにしました。
夜警係に朝、豆炭に火をつけてもらったら夕食後まで、温かさはキープできます。その為に玄関で火を起こせるものを考案しました。
これで冬場換気を良くしても足元は温かくご利用頂けるようになったと思います。
② 基尺
子供が遊ぶ積み木に、基尺というものがあります。スイスのネフ社の基尺は2.5cmです。2.5cm角の立方体の組み合わせで積み木が構成されていて、この基尺がおなじ積み木であれば、他社の製品でも組み合わせ遊ぶことが出来ます。
2019年から厨房を移転して、新しい料理の取り組みを行っています。その中で提供方法を変える。その為には器も考えることを始めてきました。
もともと日本料理にはお膳の大きさや器の大きさが決まっているのですが、昨今はバラバラになっています。それを積み木の様にいろいろ組み合わせてもすっきりするようにしようとしてきました。
器をつくると言っても、どこがどう悪いのか分かりませんが、一つ作るのに半年ぐらいの年月はかかります。
その器をつくり、器を組み合わせる箱をつくり、その箱を運ぼうとすると従来の脇取りでは寸法が合わず。オリジナルでつくる。
という事を繰り返して来ました。まだ続けています。
そしてその上で導き出したサイズが、提供する上で必要な1名分のテーブルのスペースが、80cm×40cmなのです。
年末に届けられた家庭画報の2月号の写真を見て、自画自賛しています。(笑)
③ 温泉備蓄タンク
今後に向けての中で一番地味かもしれませんが、一番肝になるのが温泉備蓄タンクだと思います。
御所坊の館内のどこにでも水道水が使用できるように、建物の一番高い所に高架水槽を設けて、必要な水を溜めています。
しかしタンクは日光にさらされるので、定期的にタンク内の清掃を行う必要があります。
水道水を直圧式にできたので、高架水槽を撤去できるようになりました。
その撤去した後に、今度は温泉タンクを設置しました。
という事は、水道水と同様に配管さえすれば、館内のどこにでも温泉が供給できるという事になります。
これって考えてみたらすごいことなのです。旅館の一番高い所が泉源より低くないと出来ないのです。
・・・という事は御所坊しかありえないという事になります。
この温泉タンクを設けることで、偲豊庵に温泉の露天風呂を設けました。
また小さな部屋を3つ使用した、スイートルーム2室にも温泉の源泉かけ流しの浴槽を設けました。
また建設中ですが、昔、浴衣を干していた屋上に新しい入浴施設をつくっています。
このように今後、色々な活用が考えられます。
終の宿
このコロナ下に3人の親父を亡くしました。
家内の親父。無方庵の綿貫先生。そして実の親父。いずれも世間でいう長生きでしたが、色々考えさせられました。
新たな事業展開を行う、事業再構築補助金という補助金に「終の宿」というテーマで応募し、採用されてスイートルームを2室つくりました。
阪神淡路大震災の時は、団体旅行から個人旅行の変わり目でした。
今回は、個人旅行でも特に家族で過ごす旅行になると考えてスイートルームを造りました。
カップルというより親子三世代、四世代楽しんで頂ける部屋です。その為の仕掛けを色々盛り込みました。
価格的には高いですが、客室の㎡あたりの単価は他の部屋と変わりません。従来の小さな部屋を3室使用していますので、小さな部屋の売上額の3倍+αです。
手品の種
旅館などのサービス業は手品と同様です。種や仕掛けを仕込んでお客様を驚かせ楽しんで頂くものと思っています。
その種や仕掛けをすべてご披露するわけにはいきません。
お客様方が種や仕掛けを暴く楽しみを奪う事になるからです。
この3年間。長かったと思います。
でも御所坊だけでなく有馬の街も含めて色々変わりました。
是非、お楽しみください。
ありがとうございます!