ぽっかり抜けた記憶
ぽっかりと記憶が抜け落ちる、という感じ。
例えば、母が自分で薬をパチッとシートから出し、飲む。
そして、すぐに「私、薬、飲んだかしら?」と言う。ほんの数分前にした自分の行動なのに…。脳で、何が起きているのだろう。
久しぶりに行った歯医者では、先生に治療の説明を受けるも、家に帰ってくると、「なんて言われたかしら…?」となってしまった。
次回からは、「お父さん、来てね」ということになった。
母自身も、「その時は、言われたことを覚えておかなきゃと思っているんだけど、家に帰ると忘れちゃう」と言う。一生懸命に聞いているのに。「お母さん、がんばれ!!」と思う反面、「病気には勝てないよね…」とも思ってしまう。がんばっている母を見ると、本当に複雑な気持ちになる。
「そんなムキにならなくても…」「必死だね」
「できる!できる!」…色々な気持ちを抱いてしまう。
毎日のように、出かけていることも、母は忘れてしまう。「そうだっけ?」そして、次の言葉は「覚えてないわ」。この言葉を、これから幾度となく聞くことになるだろう。
ぽっかり、抜けた記憶は、どこにいってしまうのだろう。
「忘れた」「覚えてない」と言われる、その瞬間は、なんとも切ない。私自身が覚えているから、そう思うのだろうか。
それでも、母は生きる。マイペースに。
でも、ちゃんと家族のことを思って…。
少しずつ、忘れることも、あたりまえとなってきている日々。母の中で、忘れてしまう自分を抵抗なく受け入れているかは謎。ただ、忘れる。誰も、悪くない。病気の症状。
いつまで、私のことを分かっていてくれるだろうかと思わずには、いられない。
抜け落ちる記憶が、これ以上、増えないことを願うのみ。
(2012.6.11)
2020年、ここ数日の母は、出かけたことを忘れて、また出かけるの頻度が極端に増えている。
「帰る!」と言い、こんなところにいられないと、プリプリ怒りながら身支度を整え、素早く外出する。そんな母の帰るコールに、慌てて支度をして追いかける父。
ここ数日で、朝から夕方まで、一日に3〜10回近く外出している。
父は、15000〜20000歩以上あるいている日もある。
2人とも、食事もまともに摂っていなければ、落ち着いて椅子に座る時間もない。
とにかく、母は「帰りたい!」と言い、家を出る。いざ、外出すると帰りたい気持ちは忘れて、ただのお散歩モードになる。
ここ数日は母の熱量が、本当にすごいそうだ。そんな母に振り回されて、父は、へとへとで、疲れからくる腰痛に悩まされている。
介護って、健康じゃないとできないものだと、つくづく思う。
私は、あいかわらずのウツ。動けない。でも、両親のことが心配だ。力になりたい気持ちはあっても、行動にうつせず、もどかしい。電話するのが、やっと。
父の声を聞いて、事故なく、無事に過ごしていることにホッとする。
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