読書記録 vol.3『ニュータイプの時代』
《本書の概要と簡単な感想》
21世紀そして令和を迎えた。昨今は新型コロナウィルスの席巻もあり、日本中で働き方の見直しが求められている。著者の山口周氏は、新しい時代に歓迎される人材として「ニュータイプ」を定義した。旧態依然とした人材を「オールドタイプ」と総称する一方で。
時代に望ましい人材の要件が、「時代ごとに特有な社会システムやテクノロジーの要請によって規定される」としたうえで、ニュータイプを「自由、直感的、わがまま、好奇心が強い」人物であるとした。そして、この人物像が今後の新しい成功像になるとする。
一方で、オールドタイプの特徴としては、「従順、論理的、勤勉、責任感が強い」人物であるとする。一見すると、現在組織にいて活躍する(してそうな)人物にも同様の傾向も見られるのではなかろうか。最初はそのような疑問を私も持った。
多くの自己啓発本が出版され、ニュータイプのような人物像を称賛する声はよく聞くようになった。しかし、それらの自己啓発本の類いと本書を分けるものとして、ニュータイプ台頭の背景にある社会的要請の分析にある。軽く、「こんな人物が成功するから行動しよう!」と声をあげるのではなく、しっかりと時代背景の要請にそって成功像を導くのが本書となっている。
その意味で、非常に説得力がある一冊となっている。若い時分から、社会に興味をもち、起業したりスタートアップでばりばり仕事する人が増えてきた。そんな時代だからこそ、本書を手にとって教科書代わりにしてほしいと思う。
《本書で得られた気づき》
▼問題の希少化と価値・意味の創造
かつては「問題の解決」がボトルネックであった。そのような時代にあっては、解決法の提供そのものがビジネスチャンスとなった。しかし、モノや解決法の過剰化により、「正解のコモディティ化」が発生し、ボトルネックが問題の「解決」から「発見」へとシフトした。問題の希少化の時代の到来である。
問題の希少化である現代において、「問題を見出し、他者に提起できる人」つまりはニュータイプが価値を発揮する。日本全体で「世界・人はこうあるべき」という未来への構想力の衰えにより、アジェンダは不足し、イノベーションは停滞している。このような現状において、「未来を構想する力」は大きな価値を持つこととなる。
この力は同時に、組織のリーダーシップにおいて、フォロワーに「意味」を与えることに直結し、プロダクトに「共感」(ビジョンに求められる最重要要件)を発生させることができる。組織のモチベーションは「意味」の大きさに左右され、プロダクトは人々の「共感」によって成長する。つまり、ニュータイプは組織・プロダクト双方にとっても重要な経済的価値を生む存在となり得る。
▼求められる思考法
山口氏は「論理偏重」への警鐘を鳴らす。と同時に、論理と直感のバランス(状況に応じて使いこなす柔軟性)が大事だとする。ここが他書と違う特徴である。白黒つけるのではなく、状況や文脈に応じて、使うべきものを選定する能力を身につけることが大事とする。
生産性を求める「規律」に絶妙に「遊び」を盛り込む、という言葉もその特徴であろう。ともすれば、定量的分析に偏り、質的指標(意味の把握)がおざなりにされがちである。そのほうが納得する人が多いし、お金も回してもらいやすいから。しかし、「意味の市場」では顧客価値を数値化できない、量的指標と質的指標のダブルスタンダードが必要とするように、一つを切り捨て、新しいものを入れようという主張ではないことに、山口氏の柔軟な発想力を思う。
▼リベラル・アーツの位置づけ
日本では「教養教育」と訳される分野。「役に立つ」ことがサイエンスであるならば、「意味がある」ことはアートの分野に求められる。いま、目の前にある「当たり前」を相対化し、問題を浮かび上がらせるのに役立つのがリベラル・アーツである。
世の中の「当たり前」に疑問を投げかけることは、それすなわち「問題の設定」であり、組織の上層部にいくほど必要な能力となってくる。
社会のVUCA化が進行し、不確実・予測不能な未来が押し寄せてくる現代、必要なのは「経験」ではなく、新しい学びをどんどん吸収し実行することが求められる。未来を構想し(問題を設定し)、物事に意味を与えて共感を発生させる。柔軟に遊びながらチャレンジしまくるニュータイプが、今後の社会をいっそう良いものに変えていくのだろう。そして、自分もその時流に乗り遅れないように、明日からまたチャレンジ・トライ・遊びの連続に身を投じていこう。
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山口周『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社、2019年7月)
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