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ぼくになにが起きたかなんて、後世には一文の価値もないことだから

今日で夏が終わるように感じる。学生時代の夏休み期間の名残りだろう。一体あと何年、あの頃の感覚に引きずられたままなのか。

夕方、オフィス。同僚が、そういえば昨日はかつサンド何箱もらいました?と聴くので、全部で6箱くらいですかね、ほとんどエビかつで参りました、と応えると、僕は10箱です、と自慢げに答える。1箱サンド3切れなので、合計30切れですか、そんなにかつサンドばかり1人で食べられますかね、と彼に問うと、いや、一度には食べない、しばらくは朝ごはんに1箱ずつ食べるんだという。そうして、彼はまい泉のwebサイトでかつサンド1箱あたりの単価を確認し始め、自分が全体でいくら得をしたか勘定する。吝嗇家にも上には上がいる。

帰宅すると、奥さんがテーブルの上に数々のお菓子や小物やらの品物を所狭しと並べている。今日が今の職場の最終出社日だったので、同僚たちに餞別の品をたんまり貰ったらしい。来月から別の職場に代わるだけだが、ひとまずはお疲れ様、ということで、今夜は好きなものをごちそうするよと伝えると、何でも好きなだけ食べていいの?!と言う。好きなものをごちそうするとは言ったが、何でも好きなだけ食べていいと言った憶えはない。ひどい拡大解釈をする。彼女の希望でステーキを食べに行くが、久しぶりに肉を食べすぎて、彼女も私も胃がもたれた。

その帰りに二人でファミレス。深夜の時間帯だが、客入りはまあまあ。ドリンクバーでカフェラテを飲みながらPCで昨日分の日記を書く。書き終わり、ダニエル・デフォー『ペストの記憶』を読む。書評きっかけ。ロンドンを襲うペスト大流行の記録。

 あれは確か、一六六四年の九月はじめのことだった。近所の人たちと寄り集まって雑談していると、こんなうわさを耳にした――ペストがまたオランダに戻ってきたらしい。実はその前年の一六六三年にも、あの国でペストが大流行していた。特にアムステルダムとロッテルダムはひどかった。それでオランダのペストはどこから来るのかが話題になり、誰かがイタリアだと言うと、いやトルコから帰るオランダ商船の荷物に紛れて地中海を渡ってきたのだとか、いやクレタ島からだ、いやキプロス島だとか、いろいろな意見が出た。でもどこから来たかなんてどうでもよかった。いずれにせよ、あれがまたオランダに来たことに変わりはなかったのだから。

ダニエル・デフォー(著),武田将明(訳)『ペストの記憶』研究者,p3

デフォーの体験記のような語りだが、彼はこの災禍をリアルタイムには経験していない。当時の資料を読み漁り、その中から架空の市民を作り上げて、彼によって語らせるというスタイル。

こうなると、ぼくは自分の身が心配になり、どこにいればよいか真剣に悩みだした。すなわち、ロンドンに留まるべきか、それとも近所の大勢の人たちのように家を閉ざして避難するべきか。この問題について、なるべく詳しく書き留めておくが、それは後の時代の人たちが同じ災難にみまわれ、同じ選択を突きつけられたとき、ひょっとして意味をもつかもしれないと思ったからである。つまりぼくが望むのは、この記憶が後の人びとの行動の指針になってくれることで、自分の行動を歴史に残すことではない。ぼくになにが起きたかなんて、後世には一文の価値もないことだから。

ダニエル・デフォー(著),武田将明(訳)『ペストの記憶』研究者,p12

奥さんが貴志祐介の『新世界より』の下巻を読み終わったところで、店を出る。奥さんの感想を聴きながら、家まで歩いて帰る。5,6年前にこの本を読んだときに感じたことが、うっすら蘇る。人間が社会を作るとき、その社会に適合しない、管理しきれない存在がときどきどうしても現れてしまう。そうしたとき、人々はどのように振る舞うのか。

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