どうかお願いします、ちょっと #silent について語らせてください
久しぶりに最高に「ドラマチック」なドラマと出会ってしまった。
フジテレビ系木曜劇場『silent』。
ドラマやバラエティなどの「テレビ番組」が敬遠されつつある中で、TVerでは歴代最高となる脅威の582万回というバケモノ記録を叩き出しています。
業界に特に詳しくない私にでも分かる、恐らくこの記録は本当に凄い。
実際周りでも「テレビがそもそも部屋に無い」という人や「YouTubeしか見んわ」といったように若者のテレビ離れが顕著な中、『マジで久しぶりに民放ドラマ、silentだけは見よる』と話す人が多いです。
私世代だと、そのストーリーの特異性や時代に沿ったテーマ性から『家政婦のミタ』や『あなたの番です』、『逃げるは恥だが役に立つ』などが話題を呼び、社会現象を巻き起こしたドラマとして記憶に新しい。
でも『silent』はよくありがちな「10代~20代女性を中心にSNSで評判となり....」のような 単純に話題性のあるドラマではないんです。
単に旬の俳優たちやドラマを楽しむだけでなく、「いやなんかこれ、今までのよくある“ドラマ”じゃない!」感が否応なしに感じ取れてしまう作品であったために、私含めTwitterやYouTube、コラムニストなど、界隈を問わず作り込まれた作品の世界観にズブズブにハマり、込められた狙いや情熱といった「裏側のハナシ」まで突き詰めた見解や“考察合戦”が展開され、「参加型ドラマ」と化しています。
『silent』って何でこんな盛り上がりみせてるん?
過去こんなにも、登場人物たちの台詞のいちいちを拾ってはその真意に思考を巡らせ、それこそ彼らの"一挙手一投足" に釘付けとなり、意表を突かれ 感情をぐちゃぐちゃにされるドラマがあっただろうか。今期クール最大の盛り上がりを見せる本作品は視聴者の何にヒットしたのか。
『silent』の魅力について私なりの思いをむちゃくちゃnoisyに、雑多に触れさせていただきたいです。
このドラマに激ハマりしている人たち全員が共通してヒットしてる点って恐らく、
『え、うわ〜〜....全員エグいぐらいリアル.....切な......』
という、「登場してくる誰のどこを切り取っても切なすぎて感情移入しちゃえる点」だと思うんです。
映像や小説などの作品において人は、登場人物たちの日常に自分と似ている所を探して「共感」を見つけようとする節があります。
その人の価値観や恋愛観を介した、その人の人生が重ねられた色んな見解や考察が Twitterを初め多くのSNSで展開されていて、新たな気づきを得たり「え、そんな伏線あったんや。ちょもっかいTVer見てみよ」となれる。いわゆる「参加型」番組化していて、 ただ受動的に視聴する訳では無い、その双方向性も含めて他のドラマと差別化されているように感じます。
「うわあ~~.....まじで分かる。てか実際こんなことあったよな自分も。いや待って、川口春奈と鈴鹿央士のやりとり、自分やったことあるわ目黒蓮もくっっそリアルやん....」と、登場人物たちの心情やその変化が見る側に「伝わりすぎる」。痛いほど気持ちが「想像し得る」。そういった、目を背けたくなるほどのあまりの生々しさの追体験が出来るとところに多くの人が魅了される理由なんじゃないでしょうか。
でもじゃあ、何でそんなふうに多くの人がここまで"しんどすぎるぐらいのリアリティ"を感じとって、感情移入をしてしまえるのか。
一体このドラマの何が我々をここまでのめり込ませ、ドキッとさせられる程の生々しさを感じられるんでしょうか。
とりあえず目黒蓮がやばい
勿論、俳優さんたち一人ひとりの演技レベルの異常な高さが貢献していることは言うまででもないです笑
連ドラ映画ヒロインを何度も務める川口春奈さんを初め、前クールの『六本木クラス』でも爪痕をしっかり残しまくってた鈴鹿央士さんなど本当に錚々たる顔ぶれが並びます。
特に一際目を引くのが、Snowman目黒くんの演技です。(silentからめめ担、Snowman推しになってしまいましたミーハー女なのですみません、今回は特に目黒さんをピックアップさせていただきます)
難しい役柄ということを差し置いたとしても、目配せや涙の頬のつたい方、首を傾げながら愛おしい人に捧げるあの柔らかい微笑み。
結果的には同じになるから それは物凄く微妙なニュアンスの違いなのかもしれないけれど、
『初めから無かった、知らなかったもの』と、
『元々あったけど、無くなっていってしまったもの』
は、正直全く別モノだと思うんです。
大好きだった人たちとの縁を黙って一方的に引きちぎった。高校を出て上京し、紬とのこれからも新しい夢もきっと思い描いていたはずなのに。
この3年、想はどれだけの絶望を抱え、一人音が消えてゆくのを静かに感じていたのか。
元々知らなければ、こんな思いもしなかったのかもしれない。
"生まれつき難聴だった"それではなく、"ゆっくりと聴力を失っていった"一人の青年の、安易には形容詞し難い苦しみや失望感、じわじわと蝕まれていった心情などの"変化の機微"や、その"結果は同じだけど圧倒的な差異"っていうのを、表情や所作なんかで絶妙に表現されています。
それでこそ、
そう思わざるを得ないほど圧巻の演技です。
アニメの実写化等でよく聞こえてくる『ああ~ジャニーズね。』なんて揶揄、もう古い、もう言わせないですよ。それらを覆す圧巻の演技力。
ジャニーズの方々はいつからこんなにもお芝居においてもここまでの力を発揮されるようになられたのですか???いやもはや、「ジャニーズ」で括るのも烏滸がましいわいと。
しかしですね。演者さんたちの神がかった演技も去ることながら、視聴者がここまでのめり込むそれっていうのはやっぱり、「計算された余白」にあると思うんです。
「サイレント」が生み出す有効性
このドラマ、ほんっっっっとうにそのタイトル、「無音」を際限なく重要視しているんですね。ろう者の想とのシーンは勿論だけど、聴者同士喋ろうと思えばいくらでも喋れる湊斗と紬、真子と紬の間にさえも、惜しげも無い"間合い"を設けてくる。すごく大胆な脚本だと思います。
だって、ただでさえテレビ見なくなった今、もしドラマ見るってなったらメイクや身支度しながら、ちょっと料理しながらってYouTubeのように片手間に見るでしょ。映像って正直ほぼ見てなくて、制作陣たちがちょっと仕込んだ仕掛けとかも余裕で見落としてしまうぐらいには、みんな音ベースでドラマをながら見してる。
そんな時代の流れと逆行するかのように、容赦なく「音の無い世界」で勝負してこようとする。
湊斗と紬の回だった5話は、特に丁寧に人物の心情の変化が描かれていました。
紬と湊斗の最後の通話のシーン、ラストの想が一枚一枚ページをめくるシーンでも、
一周回って見る側を不安にさせかねない程の妥協のない「無音」と絶妙すぎる間合い。
余計な描写や言葉(音)による感情説明的なものが無い分、視聴者はあれこれと想像や考察をする余地を与えられるから、自分の視点や立場に置き換えて没入することができる。
この「無駄じゃない無駄」な余白こそが、『silent』が「今までのドラマとは違う」「今季最高作品」と唄われる最大の所以だと思うんです。
また演技の面でも、 音に頼るとか、過度な脚本に頼るとかではない"サイレント"な演技であることも、作品をより一層生々しいものに仕立て上げている。
緻密で繊細で、言葉と言葉の間の間合いや息遣い、目配せひとつとっても、チープに省略することなく、丁寧に時間をかけたり映したりする贅沢な演出が、"圧倒的なリアリティ"の創生に最大限貢献している。
そのような"ファストに逃げない"脚本だからこそ、視聴者それぞれの記憶の片隅にある原体験や、そっと閉まっておいたまま風化しかけていた
「なんなら苦しくて思い出したくない、それぐらい思い出せば恥ずかしくて繊細で脆いもの」
「うまく言語化は出来ないけど確かで繊細なもの」
そんな感情や記憶のどこかしらに引っかかって呼び起こさせられるから、こんなにも惹き込まれる。まるで自分事のように 胸が締め付けられ、張り裂けそうになってしまう。そう感じます。
報われなかった思い、不完全燃焼のまま死んでいってしまった恋、ちょっとザラザラした、トゲトゲした複雑な心情。
ドラマであることを忘れ、まるで「自分ごと」のように追体験させてくれるかのような生々しいほどのリアリティと没入感。
全てが計算され尽くされた上で作り込まれた本作の世界観は、これまでのドラマの手法とは違う、目を見張るものがあります。
またこの作品に散りばめられたあれこれについては追々書ければなと思います。
『silent』を介して馳せる日本のテレビ事情。テレビって、やっぱ良いのよ
とにかく、『silent』ってほんとなんだか、『ああテレビって、やっぱ良いよな。』そう思わせてくれる作品だと強く思います。"今"だからこそ評価されてしかるべきなんだろうなあと。
綺麗な部分しか映さない、虚構で双方向性がないと敬遠されがちだけど、制作陣の方々、芸能人や裏方問わずテレビ関係者各位の方々の趣向を凝らした作品たちは改めて見るとやっぱり面白い。
YouTubeが台頭し始めてきてた時のテレビは確かに全盛期の時よりかは落ちていたように思うけど、テレビにはテレビの魅力があって今また盛り上がりを見せているように思える。ドラマバラエティ問わずもっと、この時代だからこそ評価されるべきだと思うんです。
脚本家か演出家か、はたまた演者か。
いったい誰が凄いんだろうかこのドラマ。いやもう関係者各位全員だよな....
こんな「誰かに語らずにはいられないドラマ」作ってくださってありがとう.....
TiktokやYouTubeが台頭し テレビが「ファストフード化」されたこの時代で、こんな正々堂々としたラブストーリーで勝負を賭けたフジテレビと制作陣の皆様には脱帽です。
『ただ純粋に、"面白いもの、創りたい"。』 このドラマに関わる全ての人たちの、そんな真っ直ぐかつ貪欲な熱意と情熱が感じ取れる、色んな意味で最高に「ドラマチック」な作品に久しぶりに出会えて、凄くワクワクしています。