『少女地獄』 夢野久作の名著が何故面白いのかを考える。
どうも、宇宙ゴリラです。本日は夢野久作先生の名著「少女地獄」が何故面白いのかを考えていきたいと思います。
少女地獄とは?
少女地獄は、探偵小説作家「夢野久作」の短編小説集。3つの短編小説「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」によって構成されており、短編同士に繋がりはなく全て一話完結の形式になっています。
「少女地獄」のあらすじ
姫草ユリ子が自殺したことを告げる手紙から物語は始まり、彼女との出会いについて回想していきます。臼杵利平の務める病院に、姫草ユリ子という名の看護師が務めることになりました。彼女は非常に優秀で、患者からの評判も良く病院の売り上げもうなぎ上り。ある時、姫草ユリ子は、「臼杵先生は、白鷹先生によく似ていると」と話をします。臼杵は憧れの白鷹先生と姫草が知り合いであることを知り、白鷹先生を紹介してくれるように頼みます。姫草の仲介があり、何度か白鷹先生と会う機会が訪れますが、全て向こうの都合が悪く会うことができず、電話でのやり取りしかできませんでした。
ある時、臼杵は医師の集まりで白鷹先生と実際に会う機会に恵まれます。しかし、白鷹先生は姫草から聞いていたような人物ではありませんでした。違和感を感じ詳しく話を聞こうとすると、白鷹先生は「姫草ユリ子がまた…何か、しでかしましたか」と臼杵を心配する様を見せました。ここで、臼杵は姫草ユリ子という人物が稀代の嘘つきであることに気が付きます。臼杵と白鷹が遭遇したことにより、姫草の言動や行動の嘘が暴かれ、姫草は病院から姿を消します。致死量のモルヒネと小型の注射器を盗み、同僚の看護師を脅して。
登場人物
・臼杵利平(うすきりへい)
主人公。耳鼻科を営む医師で、K大の先輩医師・白鷹のことを尊敬している。ある日、自身の経営している医院にやってきた姫草ユリ子を看護師として雇うことになる。
・姫草ユリ子
本作のヒロインにして悪役。臼杵の病院に来る前は、K大の耳鼻科に看護婦として勤務していた。19歳の美少女でありながら、非常に優秀な看護婦で、関わる人全てを魅了する色魔のような女性。その正体は、病的で天才的な嘘つき。
・白鷹秀麿(しらたかひでまろ)
臼杵の先輩医師で、大学時代には臼杵の指導を行っていた。現在は、K大病院で耳鼻科の助教授を務めており、姫草が以前務めていた病院の先生である。臼杵以前に姫草の被害にあっていた人物。
・曼陀羅(まんだら)
産婦人科病院の院長で、姫草が自殺した原因を臼杵にあると考え彼の元を訪れる。ユリ子の最期を知る人物であり、姫草の自殺の手伝いをした。おそらく最後の被害者。
・臼杵利平(うすきりへい)の妻
臼杵よりも早く姫草ユリ子の嘘に感づいており、まったく疑っていない臼杵に忠告をする。
少女地獄がなぜ面白いのかを考える。
ここからが本題。なぜこの作品が面白いのかを考えていきます。私が、この作品を面白いと感じた理由は大きく分けて3つです。
・物語の構成
・姫草ユリ子というキャラクタ
・物語の最後に残された謎
物語の構成
物語がどのように展開したかを分かりやすく考えるために、起承転結にあてはめて行きたいと思います。
・起
臼杵利平が、白鷹秀麿に宛てた姫草ユリ子の自殺を告げる手紙
・承
回想。姫草ユリ子が臼杵の病院にやってきて、大活躍をする。
・転
姫草ユリ子の嘘が、臼杵と白鷹の出会いにより発覚。
・結
姫草ユリ子が嘘をついていた理由、姫草ユリ子の正体が明らかになる。
こんな感じで私は起承転結をとらえています。
まず、起の部分では物語の導入として姫草ユリ子というとんでもない人物が自殺したことが告げられます。臼杵は姫草ユリ子という人物を語る際に以下のような説明を行っています。「遂に彼女自身を、その自分の創作した地獄絵巻のドン底に葬ほうむり去らなければならなくなったのです。その地獄絵巻の実在を、自分の死によって裏書きして、小生等を仏教の所謂いわゆる、永劫の戦慄、恐怖の無間地獄に突き落すべく……。」
これを読むと思いますよね。「姫草ユリ子って女はどんな悪い奴なんだ…」って。
承に入り、姫草ユリ子の悪行が描かれるのかと思いきや、その期待は裏切られ、姫草ユリ子無双が始まります。患者にはものすごく好かれるし、病院の売り上げは上がるしでとんでもない完璧人間として描写されます。ここで、起の部分で前振りをしていた「姫草ユリ子はとんもない悪人だ」という前提が壊されます。しかし、オチは姫草ユリ子の自殺で決まっています。つまり彼女が善人のままでは話が終わりません。
次に転の部分では、雲行きが怪しくなり姫草の言動や行動にほころびが見られるようになります。臼杵の心情にも姫草に対する疑いが現れていきます。そして、白鷹先生との遭遇をきっかけに一気に姫草ユリ子の嘘が暴かれていきます。この部分は探偵小説でいうところの謎解き部分にあたり、一番盛り上がる部分です。
起の部分で前振りされた姫草ユリ子の異常性が明らかになります。起の部分で描かれた「姫草ユリ子が稀代の嘘つきである」という前振りは承と転の両方に大きく影響を与えていることが分かります。
そして結の部分ではついに彼女が嘘をつく理由が明らかになり「精神病」であることが明らかになります。自分自身を着飾り、病的に嘘をつくことで完璧な人間を演じきった彼女。しかし彼女の中身はタイトル通り「何んにも無い」。ここでタイトルを回収してオチとなります。
構成の妙としては、やはり初めにオチを明かしている部分がうまく働いているように思います。これは倒叙形式と呼ばれ、探偵(推理)小説でよく使われる手法になります。この物語を時系列順に描き、姫草ユリ子の正体を時系列に沿って物語にしてしまうと、姫草ユリ子という存在があまりに怪しすぎて、わざとらしくなってしまいます。彼女の異常性という部分に焦点を合わせて物語を展開するには、先にオチを明らかにしてしまう方が都合がいいことがよくわかります。
つまり夢野久作が、探偵小説の手法を用いて謎解きの部分ではなく姫草ユリ子の異常性を描いた部分が本書の魅力であると私は考えています。
姫草ユリ子のキャラクター
「何んでも無い」2つ目の魅力はずばり、姫草ユリ子のキャラクター性だと思っています。姫草ユリ子という人物は序盤に「大嘘つき・悪役」として描写されています。しかし、読んでいて姫草ユリ子を嫌いになることはありませんでした。物語の中でも、主人公の臼杵は「彼女のことをまったく恨んでいない」と発言しています。この「恨んでいない」という部分が姫草ユリ子というキャラクターを最も表している部分だと私は思っています。
ただの嘘つき、ただの異常者ではなく、どこか愛おしく感じるキャラクターとして姫草ユリ子を描いた点がこの本の面白さに大きく関わっていると思います。物語の最後に姫草ユリ子の正体は、虚言癖、ある種の精神病であるという事実があかされますが、精神病であるという言葉だけでは、説明のできないキャラクター性が彼女にはあるように感じます。
物語の最後に残された謎
3つ目の魅力は、物語の最後に謎が残る点です。謎というのは姫草ユリ子が書いた遺書の日にちです。姫草ユリ子が自殺したとされる日時は12月の3日です。3日は月初め。月初めというのは物語の中で姫草ユリ子が嘘をつく時期という風に描写されています。つまり、この12月3日に自殺したというのは彼女の虚言癖を考えると少し怪しくなってきます。
「本当に彼女は自殺したのか?」この疑問は物語の根幹に関わる大きな問題です。物語の最後で提示された謎。この謎によって様々な想像が膨らみます。このような仕掛けを最後に残すことで、他の人と「少女地獄」という作品について語りたくなる。他者と共有したくなるというのは、面白さと関係しているような気がします。
まとめ
私なりに面白いと思う点を3つ書いてきましたが、他にも様々な魅力がある作品だと思います。特によく見る意見は「文体や表現が魅力的」です。しかし、私なりに何故面白いのかを考えた時、最も重要だと感じたのは「物語の構成」でした。おそらく構成が変わるだけで物語としての完成度が全く違うと思います。
あなたはこの物語の魅力はどこにあると思いますか?ご意見があればコメントしていただけると嬉しいです。最後まで、読んでいただいてありがとうございました。
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