#61_「靴ひもが結べたよ!」
今日、息子がサッカーの練習に行こうとして、玄関でスパイクを履いていました。車の鍵を手に取って、「よし、行くぞー」と声をかけたそのとき、息子は「お父さん、見て。靴ひも、自分で結べたよ」と言いました。これまでスパイクの靴ひもは私や妻が代わりに結んでいました。息子もいろいろと試行錯誤していましたが、なかなか上手に結べずにいました。どうやら最近になってコツをつかみ、自分で靴ひもを結べるようになったようです。
「お父さん、見て。靴ひも、自分で結べたよ」
この言葉に対して、私は、気づけば言っていました。
「お、やるじゃん。成長したねえ」
息子はうれしそうにしていました。
私は、ハッとしました。
このとき、ようやく、気づきました。
「成長」という言葉が、メタ言語であることに。
私は思わずスマホを取り出し、「成長という言葉はメタ言語である」とメモしました。絶対に忘れてなるものかと思いながらメモしました。
このエピソードと気づきから得られる方法原理は……
「あなたの成長は?」といきなり問わないこと。
今回のエピソードを分析してみます。
1.息子は靴ひもが結べた。
2.そのことを父親に報告した。
3.父親が「いいね」「すごいね」とほめた。
4.父親が「成長」という言葉をかぶせた。
5.息子はうれしくなった。
原理的に考察します。
1.できなかったことができた。
2.「できるようになったこと」を他者に表現した。
3.他者が承認し、称賛した。
4.他者が「できるようになったこと」を「成長」という言葉でメタ的に表現しなおした。
5.「できるようになったこと」は「成長」なのだと実感した。
「成長」という言葉は、「動詞-過去形」で表現された「驚くべき事実/称賛されるべき事実」を価値づけます。その意味で、「成長」という言葉は、メタ言語です。
「あなたの成長は?」といきなり問わないこと。
この方法原理は、次の原理を生み出します。
「あなたは何をした?」「あなたは何ができるようになった?」というかたちで、まずは事実を問うこと。
子どもたちは「動詞-過去形」のかたちで、自分自身の経験をふりかえり、記憶を探索しはじめます。
そして、子どもたちが表現した「動詞-過去形」に対して、私たち教師は驚き、承認し、称賛します。(中学生ともなれば、ウソっぽいのはすぐにバレるので、いろんなことに驚ける感性を日頃から養っておくことが大事ですね……。)
そして、教師の驚きと承認と称賛の具合を見て、子どもたち自身が「動詞-過去形」で表現した事実を「成長の事実」として価値づけていきます。
靴ひもが結べるようになってよかったね。
靴ひもが結べるなんてすごいぞ。
靴ひもが結べるって、かっこいいぞ。
息子のにやけ顔に「もらい笑い」をしつつ、「メタ言語としての『成長』」を発見したことに「ふくみ笑い」をした、土曜日の朝でした。