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藤原定家の熊野詣をトレイル㉓ DAY6  鹿ヶ瀬峠で鹿とあう

ケモノの”気配”を燃料に想定時間の半分で駆け上がった鹿ヶ瀬峠越えの前半戦。しかし、道のりの半分が過ぎただけで、まだ見ぬアイツがいつ襲ってくるとも限らない。
大峠を越えての後半戦は、意外に大きな石がゴロゴロと転がる下り坂からはじまる。たまに足首がぐリッとなる。最近、大雨でも降ったのか、折れた竹が流出するなど道が荒れており、やはりここは野生の王国だと痛感する。

意外に道が荒れていた


しばらく歩くと小峠に到着。ここが有田郡と日高郡の郡境らしく、広川町と日高町の境目でもある。とはいえ、何度もいうが野生の彼らに郡境もなにもない。当たりの気配をうかがいながら、あるいはビビりながら進むと、かつての石畳道に出た。約500m続く歴史的遺産だが、雨の後ということもありツルツル滑る。正直、歩きにくい。

歴史的遺産ははツルツルゾーン

しょうがないので、ちょこちょこと小股で進んでいると、何やら急に「ガサ、ガサッ」と、ナニモノかが動いた。

再び、緊張で全身が一本のアンテナになる。
前方の山側に動く影。
見上げるとシカが斜面をのぼって逃げていく。
驚くと声もでないらしい。
時と心臓が止まったその瞬間。正直、ちびりそうになった。

さらに、小股で歩くスピードは増し、ようやく熊野古道公園なる場所に到達できた。この公園。誰が、いつ、何のために来るのかよくわからないが100人くらい座れるほどのベンチがある。とはいえ、メイン画像にもあるように公園とマムシという「緊張と緩和」が同居した不思議な公園で、リラックスさせる気はないらしい。それから割とすぐに金魚茶屋跡にある駐車場に到達した。もう文明のテリトリーである。
ちなみに、金魚茶屋とは、かつて茶屋の金魚が旅人たちを癒していたのでこの名がついたらしい。また、駐車場の隅には黒竹細工と鹿の角が売っている棚もあった。鹿の角が1000円だったので買おうか迷ったがやめた。
こうして峠越えは完了。振り返るとここにも「熊出没注意」とある。
気づけば天気も晴れていた。

野生の王国の日高側の入り口

後日、ほんとうに熊がいるのか調べてみたら、ちょうどケモノ臭がしたあたりで一か月前にクマと遭遇したと書いていらっしゃる方がいた。その他にも、意外にクマの目撃情報が多いのにおののく。以上のことから、因縁のヤツをクマと独自認定しようと思う。そういう意味で、山の中を大音量で流しクマの戦意を削いだ(と思う)NHKの天気概況には感謝しかない。

さて、ようやく心を熊野詣へと戻す。峠を越えると王子谷と呼ばれる細長い谷が6キロほど続く。そのうち王子は4つ。最初の沓掛王子はその名の通り草鞋を変え、旅装を整えた場所。ちなみに、藤原定家の時代、この辺りは椎の木が多く、その木を切って槌(木槌、トンカチ)をつくり、榊の枝に結び付けて、内ノ畑王子に奉納する習わしがあったらしい。槌というのは罪人を槌で打ち付ける「ツチ分罸王子」を表し、己の罪を槌で払ってくれる。
ちなみに、ここ日高町原谷地区は黒竹の産地らしく、これまで黒い竹は焼くか、燻すかしているのだと勝手に思っていたのでびっくり。火であぶると油分で艶がでるらしい。いろいろと勉強になる。

日高町の他、高知県の中土佐町も黒竹の産地らしい

その後、後鳥羽上皇が休憩したという四ツ石聖蹟地、西の馬留王子をへて、内ノ畑王子に到着。槌らしいものが奉納されていないかみるが、まったくない。そこに、自分でつくった枝をクロスしただけの槌もどきをこそっと奉納した。これでどれくらいの罪が軽減されるのかわからないが、その前に、神様にはこれを槌だと気づいて欲しい。

さらに川沿いを進む。定家より100年前くらいに熊野へ詣でた藤原宗忠がここらへんで巨大な蝦蟇を見たという。いまの時期、カエルは冬眠中だと思うのでいなさそうではある。そして、そのまま谷の入り口にあたる高家(たいえ)王子を参り、これで白馬(しらま)山脈を抜け、山岳シリーズを終えた。

小春日和


本日の成果
大峠~小峠~金魚茶屋駐車場~沓掛王子~馬留王子~内ノ畑王子~高家王子
歩いた距離 7.8㎞


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